鬼の姦淫
第3章 鬼神との誓約
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あの晩若林くんの家に行った帰り、仲正さんが気を使って私を車で送ってくれた。
その日の今朝がたにした、父との約束を思い出した。
それで高校の近くで降ろしてもらうことにした。
車内には仲正さんと私が並び、若林くんの叔父さんだという人が助手席にいた。
もう一人。
車を運転していたのは、縦にも横にも大柄な男性だった。
恐縮してお礼をいうと、意外にも丁寧に返事をしてくれた。
「いいんですいいんです。 ただでさえ夜道はおっかないのに、女の子を一人で帰すわけにいかないですよ!」
バックミラー越しに大きな口を開けてニカッと笑ったその人の笑顔は屈託ない。
強面な外見とあいまってどこかユーモラスな感じがした。
グローブのような大きな手のせいで、ハンドルが小さくみえる。
あそこに住んでる人は大きな人が多いようだ。
それを受けて仲正さんが「うちはこんなむさ苦しい所だが、また遊びにくるといい」と言ってくれた。
私はうやむやな返事をした。
それにしても若林くんの叔父さんって、どこかで見たことがある、と私は思った。
きちんとしたスーツを着ていた。
ちょっと鋭そうな顔つきで、若林くんと同じ真っ黒の髪と目。
彼は私の送迎に同乗し、どこかへ向かうらしかった。
彼が私ではなく仲正さんに訊いた。
「義兄さん、この子は?」
「義隆と親しくしてくれてる」
そこで始めて彼が振り向き私と目を合わせた。