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鬼の姦淫

第3章 鬼神との誓約



「へえ。 僕は行政委員の務めをしていますが······知らないですか。 たまに選挙などにも顔を出したり」

「······あ···あっ、はい。 みたことあります」

たしか式典やそんな町の行事だ。
オジサンやオジイサンのなかで、やけに若いこの人が混ざっていたことを思い出す。
早瀬さん······っていったっけ。
仲正さんとは似ていないから、若林くんのお母さん側の関係なのだろうと想像した。

そういえば、私、若林くんの家のことって今までなんにも知らなかった。
そんなことに今さら気付いた。

早瀬さんは立場のある人らしく、丁寧な口調だった。
けれども、もしもここの人なら、今晩内緒でここに来た私のことは両親には黙っていてもらいたいものだ。
そういう理由で私は自己紹介を避けた。

ややあって、高校の前に車が着いたようだった。

「お嬢ちゃん、気を付けてなあ!」

ガン! という音が聞こえてびっくりすると、仲正さんが不機嫌そうな顔をしていて、どうやら運転手席の背もたれを蹴ったらしい。

「五嶋、夜分に煩いぞ」

この人、身内(?)には結構容赦がない。
へへっと堪えてなさそうに笑う五嶋さんという人につられて私も笑顔を返し、会釈してくる仲正さんには慌てて頭を下げた。
ついでに早瀬さんにも。

「────坂下さんによろしく」

車を降りたところで、下からのぞきこむように早瀬さんにそう言われ、なにか言葉を返す前に車が動き出した。
微笑んではいたけれど、深い眼窩のせいで暗い穴がぽっかりと空いてるような、どこか得体の知れない彼の様子に一瞬すくんだ。
仲正さんが私の苗字を教えたのだろうか。

それから父に連絡し、迎えに来てもらった。

諸々と、複雑な気分で家路についた。



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