
鬼の姦淫
第3章 鬼神との誓約
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そんな帰路のことはともかくとして、あの夜のことを考えると気が滅入った。
若林くんや仲正さんが言っていた、ところどころ不可思議な言葉の意味も気になった。
それに、なによりも。
ぼうっとして、体が熱いような気がする。
あの日から、生理のときのようにどこか体がけだるい。
「熱でもあるのかなあ」
ただ、若林くんのことは考えたくなかった。
どこかに知らないところに行って、そしたら忘れられる────そして私は勉強を頑張って、新しい友だちを作って、好きな人がまた出来て。
そんな風に言い聞かせ、だけど将来にまるで実感を持てない。
未来で笑ってる自分が想像できなかった。
それでもどうしようもない。
『お前とはこれで最後だ』
言葉どおりに、若林くんは私と学校でも視線の一つも合わせなくなった。
いっそのこと、あんなキスなんていらなかった────拒絶と引き換えにされるぐらいなら。 そう思っては 首を横に振る。
引越しの日をあさってに控え、今晩も眠れない夜だった。
そしてまた、仲正さんの声がどこからともなく耳に響く。
『────萌子。 お前はどうしたい?』
伸ばした手を取られることを期待したわけじゃない。
「······分からないんです。 すべきことは分かってるのに、したいことが分からない」
ただ誘蛾灯に惹かれる虫のように、頼りなく漂っていただけの自分の心が、その呟きに応えただけだ。
喉がつまって息ができなくなる前に、呼吸と誤魔化して吐き出しただけだ。
「大切な人間を亡くし、つづけざまに想い人も失ったと思い込んでるせいで、一時的にショックを受けているんだろう」
やっと寝付けたんだろうか。
仲正さんの声の幻聴まで聴こえてきたらしい。
目を閉じたまま、私はぼそぼそと口を開いた。
「想い人じゃ……ないです」
誰にも悟らされたくなかった。
愛理がいなくなった今となっても。
