鬼の姦淫
第3章 鬼神との誓約
「どうかな。 わたしとしてはてっきりあの女生徒でなく、お前たちが通じているものだと思っていた」
「……私たちは友だちでした。 とても、とても大事な」
「可愛いものだな。 そんなものは傍から見ても、話し方や視線のやり取りで分かる」
夢にしては聞こえてくる声や会話の内容がやけに生々しい。
「……?」
腕に力を入れて肘を伸ばし、私は頭をあげた。
私は自分の部屋で寝ていたはずだ。
なのに今いるこの場所は、以前にいたお社の畳敷きの上だった。
その私のすぐそばで、片膝を立てて座っている仲正さんが私を見詰めていた。
あの時と同じに、薄っすらと笑みを浮かべている。
扇のように緩やかな曲線を描く瞳。
ほの暗い室内で顔の陰影が一層際立っている。
男性にこういう表現は不適切かもしれないけれど、妖艶という言葉がぴったり当てはまる。
まるでこの世のものとは思えないぐらいに────その彼の唇が動いた。
「千代の時間を生きていると、なにもかもが儚くみえる。 その中で唯一、わたしたちにとって……いや、わたしにとって義隆は『救い』だ」
鼻をつく、むせるような濃い花の匂い。
こないだも、ついこないだも、私はこれと同じ匂いを嗅いだ。
仲正さんがもう何度目かの同じ質問を私に向かって投げかける。
「さて萌子、お前はどうしたい? すべて忘れたいのか」
「すべて………」
ここからすべて忘れて生きる。
忘れて、新しいなにかを始める。