テキストサイズ

鬼の姦淫

第3章 鬼神との誓約


むせるような濃い花の匂い────それは血の気配すらもかき消す。

自然に惹かれ合っていたと思っていたあの二人。
けれども、そうじゃなかった?

なにより、あれは『ただの事件』ではなかった?

「知ってどうにかなるものでもあるまい。 子どもだから女だからという意味ではなく。 そうだな……」

彼がすいと立ち上がり、神棚のそばに向かったと思ったら、映画やなにかの世界でしか見たことのない刀……とも違う。
仲正さんがそれよりも短く包丁よりも長い、短刀のようなものを手に持っていた。

「萌子。 これでわたしを刺してみろ」

そんな突拍子もないことをいきなり言われて狼狽えた。
濃い色の木の鞘が抜かれて、持ち手の部分を両手で握らされ、私はそれと仲正さんを交互に見た。

「え、えっ……?」

「どうした? 構わん」

「そ、そんなこと出来ません」

普通に死ねるから、これ。
大きな魚の頭とかも切れそうな、分厚く鈍い光を放っているこれをどうするべきかとおろおろした。

そんな私をみやりながら、仲正さんが再び元の場所に座りなおした。

「萌子。 鬼が残した体液は鬼を呼ぶ……その体を犯しつくすまで。 そして死体に菊を挿すのは鬼の所業だ。 たとえば……もしも『彼女』が過去に鬼と関わりを持っていたとしたら」

「鬼······愛理…と?」

「たとえばの話だ」

そうはいうも、彼の微妙に含みのある表情だった。

そんなものと関係が?
それはいつ?
このお社はこうなるもっと前に、昔はもう少しましな祠だったような気がする。
そのあたりの過去の記憶をたぐってみる。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ