鬼の姦淫
第3章 鬼神との誓約
昔、祠に火事があったその頃に、愛理が半日ほど行方不明になって騒ぎになったことがある。
その際に愛理はここで見つかったと聞いた。
────もっとも、子どもが遊び過ぎて帰りが遅れるなんてざらで、あのときは気にも留めていなかった。
まだなにかなかったかと、心の中で頭を抱えている私に仲正さんが話を続ける。
「ここにお前が呼ばれた理由も同じ理屈だ。 以前、この社の中でわたしが気まぐれにお前に触れたとでも?」
『犯人は鬼だよ』
『発見されたときに口や股の間に菊の束が詰められてたと。 なぜ寄りにもよっておくりの花を……』
町の人が口々にいっていた言葉が脳裏に浮かぶ。
愛理、なにをされたの?
なにかをされたの?
────幼いときに、私にも言えなかったなにかをされたの?
「もしもわたしがその『鬼』だとしたら? 友のために一矢報いるだけの気概はないのか」
『あのときの光景』を思い出すと、静かに秘めていたはずの自身の怒りの感情が少しずつ漏れ出てくるようだった。
背後に淡い色の大きな影を伴って、座ったまま私の方へゆらりと近付いてきた『それ』に────私は曖昧な憎悪と言葉に表わせない嫌悪、なにより恐怖を覚えた。
「……ち、近付か、ないで…っ!!」
夢中で両手を振り回し、そのときの私は自分が手に持っている物の存在を忘れていた。
「────あ」
それは一瞬で、すぐに私は手の中の刀を取り落とし、慌てて仲正さんにすがりついた。
たしかに数度手ごたえがあった、彼の怪我を確かめようとした。
「ああっ────す、すみ…ませ…っっ」
「ふむ」
胡坐をかいて俯いていた彼が、ふう、と息を吐いた。
それは退屈とも、どこか諦めともとれるため息だった。