鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
音のならない声の代わりに首を横に振る。
実際にそうしたかは分からなかった。
きっと打ち消したかったのだと思う。
とても信じられなかった────こんな粘土の出来そこないみたいなのが?
自分の記憶に、一緒に育ってきた愛理の姿が次々に脳裏に浮かんだ。
シートからはみ出た彼女の指先。
小さな爪の中まで泥で汚れ、中指の爪は剥がれかかっていた。
細く薄い貝殻のような、あれは間違いなく愛理の指だ。
そう気付いて、頭から冷水を浴びせられたような気がした。
「愛っ理……ぐ、っう…おお…あっ…」
地面に突っ伏しているおじさんのうめき声が私の斜め前から聴こえる。
その向こうで警察らしき制服を着た人が、大きなゴミバサミのようなものを持っている。
私たちから少し離れたところにある布きれをつまんで透明な袋に入れていた。
その中に紺色のプリーツスカートが目についた。
あれは私と同じ高校の制服だ。
「萌子……いったん離れよう」
そんな声がして混乱したまま後ろ手を引かれた。
体が動かなかったので、そしたら私の腕に頭を入れ、強引に立ち上がらせた。
なかば引き摺られるように私はその場を離れた。
それから私は近場にあったベンチに座らされたと思う。
黒い覆いを見据えたまま、カタカタと歯を鳴らしてブルブル震えていた。
愛理。
愛理。