鬼の姦淫
第1章 血のおくり花
人の声が勝手に私の耳に入ってくる。
『なんでも複数人に酷い暴行を受けたらしい』
『発見されたときに口や股の間に菊の束が詰められてたと。 なぜよりにもよっておくりの花を』
生まれて初めてあんなものをみた。
他人ならきっと、吐いてただろう。
けれども大切な親友を奪われた。
大事な幼なじみを地獄に落とされた。
熱く焼かれた苛烈な感情のうねりが、私の嫌悪を押しのけた。
『萌が若林くんのことを好きなら、わたしは彼とは付き合わないよ』
愛理は私の気持ちを薄らと気付いていたのかもしれない。
彼が愛理に告白してきたとき、当たり前みたいに彼女はそう言った。
いくらでも彼女に好意を持つ男の子がいた中で、初めて愛理が自分から好きになったのが若林くんだった。
愛理。
なぜ彼女がこんな目に遭わなきゃならなかったのか。
私から声にならない呻きがもれた。
「萌子。 息、ゆっくり、吸って」
「………っ」
「そう…吸うより長く吐ききって、また大きくくり返して」
自分の隣からおだやかに聴こえてくる声に導かれるまま、私はそうした。
手先の痙攣や体の冷たさが治まってきて、そのあとに盛大にむせた。
「大丈夫だ……大丈夫。 過呼吸起こしただけだ」
「う…ぐっ…うえっ……は…っはあっ…」
ようやく普通の呼吸が戻ってきて、生理的な泪や鼻水でグシャグシャの自分の顔をハンカチでごしごし荒っぽく拭かれた。
「わ……か…林くん、なんでそんな…冷」
彼は先ほどよりさらに落ち着いてみえた。
ただ俯いたままで、開いた両膝の間で自分の手を組んだ。
「冷静かって? 愛理を見付けてから半日ここにいる。 特殊な事件だからって、愛理はまだ病院にいけない。 でもついててあげないと」