鬼の姦淫
第4章 記憶
「まだ手が冷たいなあー」
「愛理、手袋持ってきてねえの?」
いやそこはそっと手握るぐらいしようよ、若林くん。
……そしてそんな彼女たちを想像すると、いいなあ。 と思う。
この『いいなあ』はなんだろう?
──────『羨ましい』?
愛理が私の顔を見て訊いてきた。
「萌。 どしたのニヤニヤして」
「え?」
「言っとっけど、数学しか協力しねえからな?」
「わー若林くん好き」
「棒読みか」
「あははっ」
笑ってるならきっと平気なんだろう。
私は二人が大好きだから。
そしてこんな現状を変えるべく、私は愛理を応援することにした。
無い知恵を振り絞り、まずは彼女たちが二人になれる状況が多くなるよう気を配った。
優しい愛理と若林くんのことだから、他に誰かがいたらそっちの方が気になってしまうんだろう。
三人で勉強会をやろう、という話を振って愛理の家に集まりに誘い合わせたのもそう。
そのくせ当日に急用とウソをつき、直前で行かなかった。
「週末はごめんね。 まさか、家の用事入るとは思ってなくって。 ホント。 親戚の田んぼの手伝いとか、ほらこの季節だから」
「ああ、いいよ。 そんならっておれも断ってナシんなったし」
週明けに若林くんがそんなことをケロリと言ってくる。
私と彼は行き帰りのバスが途中から同じだったから、鉢合わせたときは一緒に登校した。
愛理は朝当番でその日は一緒にいなかった。
「二人で勉強会しなかったの?」
「向こうの親が愛理のこと心配するから、二人っきりだと。 おれんちならまだしも」
拍子抜けはしたけど、なるほど彼らしいと思う。