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鬼の姦淫

第4章 記憶

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職員室を出たところで、後ろから声をかけられた。

「初任者研修はお疲れ様でしたね。 ここへ来て二週間が経ちますけど、少しは慣れましたか」

「あ……はい、なんとか大丈夫です」

「松下さんは昔、星和高校にいたのですって? あそこは優秀な人が多いから……そうそう、通学が不便という話ですよね」

言葉尻が柔らかく、はきはきと喋る人だ。
細く垂れた目じりが優しげな印象の女性は、この小学校の教頭先生。

「そうですね。 それになんにしろ、私の自宅が隣町だったものですから、雨風が酷いときはしょっちゅう通行止めになって」

「あの辺は自転車を使えるような道じゃないから」

「……それで高校に行けなかったり。 そういう、ほんの少し嬉しいハプニングもありましたけど」

「あら」

並んで廊下を歩きながら、軽く笑い合う。
ゆったりとして、温かい空気感が心地良い。

校庭を遊ぶにぎやかしい子どもたちの声。
幅の広い廊下に並ぶ窓からは、春風に並木が葉を揺らしている。

私は梢から伸びる細い光に目を細めた。

「この辺りは変わらないですね。 姫野先生もご近所から通ってらっしゃるんですか」

「車で五分ってとこかしら。 それでも以前よりは、物騒にはなったと思うけど。 前任の先生も本当にお気の毒に……」

眉をひそめて話す彼女がそう言うのも分からないでもない。
私の前に勤めていた担任の人は、車のひき逃げ事故で亡くなったのだときいた。

それに駅の地下にホームレスなんて、昔はいなかった。



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