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鬼の姦淫

第4章 記憶


春に教職をとり、私は地元へ戻ってきた。

普通、こういった職というものはまずは何年か指定された地域で働く。
そのあとでようやく希望を訊かれるものだと知らされていた。

ところがほぼ転属先の内定が決まろうとしていた矢先────自分が通っていた高校があった市で、急遽職員の不幸で空きがでたというわけだ。


『二度とここへは戻ってくるな』

そう言われたことを忘れたわけじゃない。
町の人たちの印象も良くないだろう。
私たち家族は結局、あそこから逃げるように引っ越したのだから。

地元に戻りたいといっても、町に戻るのは気が引けた。
隣の市ならまだ良いだろうと思い、私はその欠員に申し込んだ。


『うちはこんなむさ苦しい所だが、また遊びにくるといい』

一方、そう言ってくれた仲正さんのこともよく覚えている。
あの人ならふと出会っても、「変わりはないか」と微笑んでくれるような気がした。
一度だけしか会ってないのに不思議に思う。


たとえ誰とも出会えなくっても、そう思える人が二人もいれば充分。

大嫌いなマラソンの前に。
苦手な科目の試験勉強の時に。
親と喧嘩をして気まずい帰りに。

「萌。 頑張ろうね!」

そう言って、いまも変わらずに励ましてくれる親友の声。

小さな市で、小さな町で、笑顔で巣立っていく子どもたちの姿を見られれば。
彼女はきっとそこにいてくれるに違いない。

それが私の一番の望みだ。




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