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鬼の姦淫

第4章 記憶

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周りには慣れとは言われるも────教師とは、なかなかに大変な仕事だった。

朝は早くから会議があるので、七時半には着くように学校へ出勤する。
一部の専任科目以外はすべて受け持ちだし、休み時間も予習や採点、また打ち合わせに追われる。

私が帰る時間は最近20時を過ぎていた。


今日も帰りの会が終わった。
放課後に向かうにつれて、生徒の様子が落ち着かなくなってくる。

「みんなのお知らせはこれでいいかな。 今朝は雨が降ったから、傘を忘れないようにね」

「はーい!!」

それとは反対に私にとっては、ほっと息をつく瞬間でもある。

「せんせー。 さようならー!」

「さよおならー」

などとまだ幼い声が元気よくすれ違っていく。

私は初年度ということもあり、比較的扱いが楽だとされる四年生を受け持つことになっていた。

「あれ?」

生徒がすべて教室から出ていき、机の上に空色の巾着袋が載っていたのに気付いた。
どうやら生徒の忘れ物のようだ。

それを手に取り、あわてんぼうの彼の顔を思い浮かべて苦笑した。
手作りらしきそれは縫い目が荒い。
そのなかには給食で残したらしい、パックの牛乳などが入っている。

「明日になったら腐っちゃうし……まだその辺にいるはずだよね」

私は急ぎ足で教員用の玄関に向かい、外履きに履き替えた。

「ふう……若林、観月くんね」


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