鬼の姦淫
第4章 記憶
わりとどこにでもある苗字だと思う。
ただ、この子にはほかのクラスに双子の弟がいて、二人ともなかなかに面白い子だったりする。
バス通学と聞いていたから、私は学校から最寄りのバス停へと向かった。
桜の季節もとっくに終わり、街路樹の白いハナミズキの花が薄緑のお椀のように開きかけていた。
一日の終わりの乾燥した風を額に感じつつ、行く先の途中に子どもの話し声が耳を掠めた。
敷地の広い、手入れのされていない庭のようだ。
鬱蒼とした木々で暗い、どこかの古い家らしい。
特に気にせず通り過ぎようとして、「観月」と呼ぶ声で足が止まった。
「どうし……び…か」
「……なヒマは……」
私が立っている所から名前を呼ばなかったのは、彼らが声をひそめて話をしているようだったからだ。
子どもでも内緒話ぐらいはあるだろう。
でも、忘れ物を渡さないと。
それに、ここは私有地じゃないんだろうか……?
立派な門の前でうろうろしていると、家の横に柵の途切れた竹林があるのに気付いた。
「ァ…ァ────…」
妙なうめき声のようなものが聴こえる。
少しだけ躊躇したものの、私はその中へと踏み入った。
人の声とは思えなかったので葉擦れの音かなにかかもしれない。
林の隙間にちょっとだけ開けた箇所があり、そこに子どもの後ろ姿がみえた。
思ったとおり双子の二人だ。
「観月くん、時招(じしょう)くん? なにして」
ごく小さく声をかけ、そこから先の言葉が喉につかえた。