鬼の姦淫
第4章 記憶
二人は林の陰で、息を詰めて立ちすくんでいる私に気付いていない。
観月くんが足元にある空竹を拾うと、ためらいなく『それ』に向かって振り下ろした。
「ァア"────」
「喋る悪鬼もいるんだな」
人でいうと背中の辺りだろうか。
妙にこもった音を発したその生き物が直立し、ぐるんと半回転して観月くんと向かい合わせになった。
「ッ……ァア"」
こけしの頭に似た、膨らんだてっぺんがパカァと上にほころび、不自由そうな音を鳴らす。
それがぐんっと後ろに反り返り、それから人に例えると腰を屈めるように反対側に身体を折った。
黒い髪の束はそこから伸びているらしい。
私の位置からは見えない。
観月くんを覗き込んでる目でもあるのか。
彼を食べようとしてる口でもあるのか。
手で覆っていた私の口から、掠れた悲鳴が漏れた。
時招くんがちらっと私の方を振り返り、また視線をもとに戻す。
彼は何も言わず、生き物の上部を再び竹で垂直に突いた。
冷静で大人びた口調はいつもの時招くんの様子と変わらない。
「観月、こんなのでもあまり油断しては駄目です。 父様にも言いつけられてるじゃないですか。 たまに厄介なものもいるから、気を付けるようにと」
三たび、四たび。
何度もひっこ抜いては突き、観月くんもそのあとに続いた。