鬼の姦淫
第5章 地下の墓
その場で私は正座をし、居ずまいを正した。
「こちらこそご迷惑をかけ……たんですよね。 申し訳」
すると五嶋さんが大いに恐縮し、大きな手のひらを自分の顔の前で左右に振る。
「いえいえ! さぞかし怖かったでしょう? 俺の子たちが巻き込んだせいで」
「いえ、そんな」
怖かった────…
そのひと言で、遅まきながらあのときの光景が急に鮮明に蘇ってくる。
「……化けも…あ、ああっあの女性は!!」
すると時招くんが私の目をじっと見て、ゆっくりと口を開いた。
「夢です」
「えっ?」
「松下先生は僕らの前で貧血を起こされて、ああ、観月の忘れものを届けに来て下さり、ありがとうございました。 ちょうどそこへ、迎えに来た父が通りがかり。 先生は独身だとのことですので……心配した父が学校へ断って、取り急ぎうちの自宅へ。 そうでしたよね。 父様、観月」
学年一の秀才である、時招くんの落ち着いた話し口調を聞いているとそんな気もしてくる。
若干戸惑った私が五嶋さんの顔に視線を移すと、胡坐をかいてた彼が眉根をよせ、静かに首を横に振った。
「時招、オレあお前をそんな嘘つきの子に育てた覚えはねえぞ」
一方、観月くんは訊いてもいないのに気になってたことをネタバレしてくる。
「父ちゃんは五嶋だけど、若林はヤシロ様のオナマエなんだよ!」
「ヤシロ……それって、仲正さんの?」
時招くんが苦虫を嚙み潰したような顔で押し黙った。
「時招くんたちも鬼なの? 五嶋さんと同じに」
昔、若林くんを訪ねてきたときに、私は仲正さんから聞いた────鬼には三種類あると。