鬼の姦淫
第5章 地下の墓
はあーっ……深すぎるため息をついたあと、時招くんが襖で隔てた出入口を振り返って、不満げに漏らした。
「……義隆さん。 これ、僕一人ではどうしようもありませんよ。 家族全員アウェイですし。 それに先生はご存知じゃないですか」
「みたいだな。 ごめんな鬼っ子。 一応、確かめただけだ」
呼ばれた男性がいま私たちがいる部屋に入ってきた。
おそらく襖の向こうでこちらのやり取りを伺っていたんだろう。
「…………」
たしかに若林くんだけど、私はなんと言っていいか分からなかった。
久しぶり過ぎたのか、彼の態度が余所余所しいせいか。
「……あの女性のことは心配ない。 病院に運んだ。 どうせなにも覚えちゃいないだろうし、その辺りは叔父やおれが後始末する。 この双子は便宜上、仲正の養子ってことにしてる」
「で、でもあれは」
こうやって彼が私に話していても、微妙にこちらから視線を避けている。
大人になった彼は、見た目でいえば仲正さんにますます似ていた。
目尻が少し下がった広い目幅に通った鼻梁。
女性のように端正でありながらも、否が応でも異性を感じさせる線の真っ直ぐさ。
並んだら本当に兄弟かと見間違うだろう。
ただしその印象は、仲正さんとは全く違う。
「これで充分だろ? あんまり特定の家庭に首突っ込むもんじゃない。 教師になったんだろう」
若林くんが明らかにこちらと距離を置きたがっているのが分かる。