鬼の姦淫
第5章 地下の墓
部屋を出て、粗末とまではいかないけれど、質素な造りの家だと思った。
室内も装飾のない、必要な家具しかない印象で。
子どもがいるというのに壁に飾られる絵や写真、そんなものも何もない、冷たい廊下を若林くんのあとに続いた。
「仲正からどこまで聞いてるかは知らないが、あの子らのことは知っといた方がいい。 今日みたいなことがあっちゃ困る」
「うん。 けど……いいの?」
私が彼らのことを知るということ。
それに若林くんはなにも答えなかった。
外に出ると、やはり彼の自宅よりも奥まったところにある一軒家だった。
山沿いに立ってる家と家の間の距離は離れていて、広い庭には畑などがまばらに作られている。
ここから向こう側、大通り沿いの拓けた土地にある小学校はまだそこにあった────もっとも、さびれた雰囲気というよりも、日が暮れて薄紫色の空の下に、黒く陰気に佇むその建物の様相は、廃墟一歩手前のような印象を受ける。
こんな場所にある住宅などには、ますます人なんて近付かないだろう。
そんな中でも裏手にあるお社は、派手ではないけど、依然と変わらずに荘厳といった趣きをかもし出していた。
懐かしいと、そう感じた。
けれど若林くんは先ほどから互いの視線も私の話にも我関せずと、早足で先を歩いているだけだ。
どうすればいいのか、私はひどく心細かった。
ウロウロ思考を彷徨わせ、思い切って彼に話しかけてみた。
「若林くん……さっきはありがとう」
「なにが?」
「私が寝てた時、水を飲ませてくれたのは若林くんだよね? 喉乾いてたから」
そう言うと、彼は間を置いたあとにただ「ん」と答えた。
……昔みたいに。