鬼の姦淫
第5章 地下の墓
彼が外開きの木戸を開けたのはちょうどお社の裏側に据え付けられているもの。
以前は気付かなかった。
ギィィ、と重い音をさせ彼がそれが開くと、濃くすえた匂いが鼻をついた。
「わ…か林くん、これ」
入り口は暗く、石段が下に続いている。
それよりもこの匂いは彼もよく知ってるはずだ。
「来いよ」
そのとき初めて若林くんが私と目を合わせた。
石段をいくつか降りたところで、彼が私を見上げる。
濡れた夜の森のような真っ黒な目の色。
そこには若林くん自身の意思しかない。
自分は何者にも侵されないのだと────彼のその部分はいまも変わってない。
私が頷いたのを認めると、彼が先に歩き始めた。
センサーで明かりがつく仕様なのか、ほの明るくゆく道を照らした。
石段に石の壁と天井。
見渡すも、光源らしきものはないのに。
地下独特の、湿った空気が肌にまとわりつく。
それでも花の匂い以外は特に嫌な感じはしなかった。
「……もっとうんとガキの頃だ。 おれは昔もここに住んでた」
「え?」
「今みたいにこれが立派じゃない頃な。 この祠の下も昔はただの洞穴で、そこでおれは愛理を見付けた」
「……愛理を?」
「聞いてないのか」
階段を降りきったところ。
上の社の畳の広さよりは狭い、普通の家屋ほどの天井の高さの洞窟の中には、両脇にずらりと茶色の壺が並んでいた。
目を凝らしてやっと見える明るさだったけれど、その壺には放射状の模様が刻まれている。