鬼の姦淫
第5章 地下の墓
「昔から鬼菊、十六鬼菊なんて家紋があるように、菊と鬼は密接な関わりがある。 鬼神が死を司る神なら、これは死を現す花なんだろう」
そう言われるとたしかにこの模様は菊の花にみえる。
一つ一つ、微妙に形が異なっている。
「ここは鬼の墓でもあり、復活の場所でもある。 あそこにあるの、見えるか? 次に再生する鬼だ」
お墓。
すると壺の中にはお骨でも入っているんだろうか。
そう言われても、ちっとも怖く思わない自分が不思議だった。
彼が指さしたその先に、奥にある壺が青くくすんで光っているのがみて取れた。
「五嶋や観月たちは一度死んでここからまた蘇った。 ただしそれが出来るのは仲正のみ。 何百年前に絶滅した鬼を、なんの理由で奴がまたそうし始めるのかは分からない」
どこか非難がましい言い方だった。
「で、も……観月くんたちは良い子だよね」
若林くんはなにも言わず、ジャケットのポケットの中に手を入れ、そこから子どもが使うようなペンケースを取り出した。
「これ、昼間の悪鬼の残骸だろ。 時招が持ち帰った」
彼が蓋を開けると黒く燻った、空気に灰が舞ってるみたいな、燃えさしのようなものが現れる。
たしか先ほど、竹林で最後に見た……。
「……っそれ」
「形を持つ鬼と違って、悪鬼は霊的なものに近い。 昔っから鬼と悪鬼は対極で、鬼としては人に危害を成す悪鬼を滅ぼすのが、時招のいう鬼の『存在意義』だと思ってるらしい……まあ、お前の思ってるとおり、五嶋さんやなんかは、悪い奴らじゃない。 むしろ」