鬼の姦淫
第5章 地下の墓
彼が言葉を切りそれを手に乗せると、一瞬だけボッと燃え上がって、先細り長く姿を伸ばす。
そして間もなく……そこから跡形もなく消えた。
消えて、彼の手のひらに残ったのは丸い肌色の櫛
────それから、床にぽとりと落ちた白い菊の花。
「愛理はきっとこれに殺されたんだと思う」若林くんが壁にもたれ、飾り気のない櫛をつまんでしげしげと眺める。
「……悪鬼ってのはキリがない。 犯して殺す、ただひたすらそれだけだ。 鬼は元々人よりは能力が高い。 だが物理的に悪鬼をやっても、時が経てばまた蘇る。 それをこうやって完全に消滅させることが出来るのは仲正と、これしか脳のないおれだけ」
若林くんが手から櫛を取り落とし、カラカラと音を立てて床に転がるそれを足で踏み潰す。
パキッと音をさせて砕け、あとには原型の分からない欠片が石の床に散らばった。
「おれは悪鬼に目を付けられた愛理を助けるつもりだった。 彼女に群がってたのを見付けて、全て消滅させて……それで残ったのがあのザマだ」
「櫛と、菊の花……?」
「櫛はただの依代だな。 生前の誰かの持ち物で、何らかの念が宿ってると考えられてる。 悪鬼の姿は色々。 力も色々……だから、子どもにはまだ早いと五嶋さんは心配した」
「だからさっきのは髪の毛お化けだったんだね」
「髪の毛お化け……? ふ、そうだった?」
若林くんが学生時代のときみたいに整った顔を少しだけを崩す。
そんな彼の様子にほっとした。
もしかして、彼は高校時代から笑うことも無い生活を送ってきたのか。 なんて心配をしていたから。