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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

 菊子も足を止める。
 声の主がこちらへ近付いて来る。
 相手は薄茶色に染めた長い髪にゆるいパーマを当てた四十代後半位の女性だった。
「こんにちは、中山さん」
 雨が女性ににこやかに挨拶する。
 女性は中山と言うらしい。
「今日はお出掛けですの?」
 中山が高い声で言うと雨は、「ええ、これから買い物へ」と静かに答えた。
「まぁ、そうですの。今日は風が少し強いけど、良いお天気ですから出掛けるには丁度いいわ。目黒さんも買い物に行くのも気晴らしになって良いかも知れませんわね」
 そう言って中山は車椅子に座る雨の足を、ちらりと見た。
「はい、そうですね」とにこやかに雨。
 この中山と言う人物、雨とどういう関係なのかと菊子は困惑の表情を浮かべて二人のやり取りを見守る。
「それで……目黒さん。あの、そちらの方は?」
 中山の目が菊子に向けられる。
 突然、話題が自分になって菊子は焦る。
「あ、あのっ、わ、私は目黒さんのかせい……」
 自分は雨の家政婦だ。
 そう菊子が言おうとした時「ああ、彼女ですか。彼女は僕の友人です」と雨が口を挟んだ。

 えっ?

 と菊子は思った。
「まぁ、そうでしたの。こんな綺麗な方がお友達だなんて目黒さんも良いわねぇ」
「そうですね。彼女と友達になれてラッキーでした」
 雨がそう言うと中山が、ほほほ、と笑う。
 雨も、ははっ、と笑っている。
 その光景を菊子はぼんやりとして眺めていた。
「じゃあ目黒さん、わたくしはこれで」
「はい、また」
 シャネルのバックを持った手を振って中山が去って行く。
 それを雨と二人で菊子は見送った。
 中山の姿が視界から消えると菊子が口を開く。
「あの、目黒さん、さっきの、あれ、どういうつもりです?」
「何が?」
 キョトンとしている雨。
 菊子は少々呆れ気味に、「あの人に私の事、友達だって紹介した事ですよ」と言う。
 菊子は現在、雨の家政婦である。
 今一緒にいるのだって家政婦の仕事としての事だ。
 それは雨だって分かっているはずなのに、どうして友人だなんて紹介したのか菊子には雨の気持ちがさっぱり理解できなかった。

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