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「はい」
　菊子は雨の前に出て勢い良く歩き出す。
　そんな菊子に雨は慌てた顔をした。
「ちょっと、菊子！　そっちじゃ無いよ！」
「えっ？」
　菊子は振り返る。
　瞬間、菊子の結わえた髪がふわりと揺れる。
「何やってんだ。ほら、行くよ」
　雨が菊子を手招きしている。
　二人の距離が開いていた。
　菊子は恥ずかしくなって顔を赤くした。
「い、今行きます！」
　菊子は雨の下へ走る。
　菊子が車椅子の横に着くと雨はゆっくりと車椅子を動かした。
　小さく呼吸を繰り返しながら菊子は少し前を行く雨を追い掛ける。
　二人は桜舞う道を再び並んで歩み出した。
　桜の花びらが、雨にはらはらと降り注ぐのを横目に見ながら菊子は進む。
　桜の花と目黒さんって結構合うかも、何て考えてみる。
　何か、とても綺麗な感じがしたのだ。
　雨が不意に菊子を見上げた。
　菊子は知らぬふりで雨から目を逸らした。



　ゆっくりペースで、ニ十五分ほどでスーパーに着いた。
　菊子はスーパーの看板を見上げて口をあんぐりと開く。
　スーパーは言わずと知れた高級スーパー、その名もカスガであった。
　菊子は生まれてこの方このスーパーを利用した事は一度として無かった。
　菊子の行き付けは言わずと知れた激安スーパーであった。
　後、街の商店街。
　商店街で買う総菜屋の出来たてコロッケなど、菊子の好物であった。
　総菜屋では、スケベ顔の店主が「美人にはサービスだよ」と、たまにオマケもしてもらえる。
「めめめめ、目黒さん、こんな所で買い物なんてした日には醤油一本とんでもない値段になりますよ！」
「そんな事無いさ。普通の値段の醤油だって売ってるよ」
「で、でも……」
「何青い顔してるんだ。このスーパーが家から一番近いスーパーなんだ。いつもは日向と車で二人で来てるんだけどね」
「は、はぁ……」
「ほら、中に入るよ」
　入店を躊躇う菊子を従えて雨は店内へと進むのであった。