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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

 自動ドアの入り口を潜ると爽やかなメロディーが店内に流れていた。
 菊子はきっちりと置かれた買い物かごを、これまたきっちりと並んだショッピングカートによいしょと載せる。
 そして、挙動不審な感じで店内をキョロキョロと見まわす。
「おい菊子、あんまりキョロキョロするなよ」
 小さな声で雨が言う。
「す、すみません。つい」
 しゅん、とする菊子。
「いらっしゃいませ」
 上品な感じの店員が丁寧にお辞儀をして菊子と雨に挨拶をする。
 菊子は思わず店員に頭を下げた。
 そんな菊子を雨が、くくくくっと笑う。
 菊子は鋭い眼光を雨に向けた。
 挨拶をして来た若い女性店員が近付いて来て「目黒様、ご来店ありがとうございます。何かお手伝い致しましょうか?」と雨に訊いた。
「いや、今日は大丈夫だよ。いつもありがとうございます」
 爽やかに雨がそう言うと店員は、やや顔を赤めて「何か御座いましたらお声かけ下さい」と深々と頭を下げて二人から離れた。
「あの店員、いちいち目黒さんの名前を覚えてるとか凄いですね」
 菊子がそう言うと雨が、「ここの店員は親切で、俺が来ると何かと手伝ってくれるから」と言う。
 ああ、と菊子は心の中で相づちを打つ。

 目黒さんは車椅子で買い物に来てるから。

「あの、目黒さん、私もしっかりお手伝い致しますから、何なりとお申し付け下さい」
 畏まった様子で言う菊子に、雨は笑って「頼りにしてるよ」と言った。

 頼りにしてる。

 その言葉に菊子は少しばかり安心をしたのだった。



 スーパーの店内は広々としていた。
 これなら車椅子の雨でも窮屈な思いをせずに買い物出来る。
 売り場の店員も元気で親切でとても感じが良い。
 雨がこのスーパーを利用しているのは単に金持ちだからと言う訳では決して無い事が分かる。
 しかし、菊子にはやはり売っている物の値段が気になった。
 野菜も肉も魚もどれも少々お高い、と菊子はため息を漏らす。
 雨の方は楽し気に商品を眺めていた。

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