🥀Das Schloss des Todes🥀
第1章 mein Prinz
「お兄ちゃんは悪くない。何も悪くないの。」
再び私はそう言った。
けれども、「そうだね。」と返ってくる事はなく、私の声が虚しく壁に吸い込まれるだけだった。
私はオウムのように何度も繰り返した。
お兄ちゃんが肯定するまで、止めるつもりはなかった。
何もかも諦めたような笑みを浮かべながら、お兄ちゃんはワインボトルを床に置くと、フラフラとした足取りでダイニングテーブル横に置かれたシェルフへと近づく。
「!!だ、ダメ!!!!!」
躊躇なく電話機に手をかけようとしたお兄ちゃんの腕を慌てて私は掴んだ。
「駄目じゃない。自首させて。もうそれしか方法は無いんだから。」
「そ、そんな事無い!い、一緒に死体を隠そう。二人で逃げよう。」
「逃げたって警察が追ってくる。それにクララも死体遺棄罪っていう罪を背負うよ?何もいい事は無いんだ。」
「私、お兄ちゃんと離れ離れになる方が嫌だ。お兄ちゃんと一緒だったら私、何でも出来るよ。ねえお願い、死体埋めよう。お願いだから。」
ここで引くわけにはいかない。
引いたら、お兄ちゃんと離れ離れになっちゃう。
そんなの絶対嫌。
お兄ちゃんの居ない人生なんて考えられなかった私は、警察に通報しようとするお兄ちゃんを必死で止めようとした。
力無く笑っていたお兄ちゃんの表情が段々強張ってくる。
「君を巻き込みたくない。」
尖った口調でぶっきらぼうにそう言い放ったお兄ちゃんの声に、私はビクッと肩を振るわせた。
その後、目尻に涙が溜まって、子供のように私は泣き出してしまった。恥ずかしくてたまらないのに、絶望的な状況だからか涙が止まらなくなってしまったのだ。
「.....さっきは怒鳴ってごめん。分かった。他の方法を探す事にする。だから、ちょっと一人にさせてほしい。」
棘が取れたお兄ちゃんの柔らかい声に号泣していた私の涙はピタリと止まった。
「本当に?」と聞き返すと、お兄ちゃんはコクリと頷いた。
「本当だよ。だから自室に篭っていて。
ごめんねクララ」
至極申し訳なさそうな表情を浮かべながら、お兄ちゃんは念を押すように私に再度そう言った。
1秒とて離れたくなかったが、お兄ちゃんの思考の妨げにもなりたくなかった私は、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしたのだった。