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🥀Das Schloss des Todes🥀

第1章 mein Prinz



たった1度、ママが火のように怒った事がある。「バレエ学校、辞めてもいいよ。」って私が言った時だった。本当に辞めたかったわけじゃない。お金の事、ママの身体の事が心配だった。優しくて強いママが居なくなったら...って考えたら怖くなった。

本心でも無い嘘を言うなって怒られた。
だけど最後は「大丈夫。ママを信じなさい。」って手を強く握られてたの。それ以降は、バレエを辞めるなんて言うもんかって決意して、一層バレエにのめり込んだ。お兄ちゃんの自室からは毎晩ピアノの音色が聞こえてきた。
一心不乱にピアノに齧り付くお兄ちゃんは将来、ハンブルク音楽院に通いたいと言っていた。各々、夢に向かっていた。私は絶対ママみたいなバレリーナになってやるって心に決めていた。


ママが過労死で亡くなるまでは。



レッスン中、急遽先生に個別に呼び出されたの。ママが倒れて病院に搬送されたって聞いて、急いでタクシーを呼んで、搬送先の病院に向かったんだけど、ママはすでに帰らぬ人となっていた。
傍らには、ママの手を握っていたお兄ちゃんが、唇を噛み締めて泣くのを我慢していた。
救急車を呼んでくれた親切な叔母様の話では、ママは道中、突然胸を押さえて動かなくなったって。
バレエ学校に行く時、「行ってらっしゃい」ってママの明るい声を玄関で聞いたのが最後だった。


私はその場で泣き崩れてしまった。



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