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飼い猫 🐈‍⬛🐾

第35章 飼い主の夏休み

溜息をついて 
詩史が 俺の手に 触れてくる。


ドキッ ドキッと… 

心臓の音が 身体中に 響く。


詩史の手が 温かい…  柔らかい…

息が  しにくい…

いつも 触れてるのに… ?


「夏祭りなんて 久しぶり!
夏葉さんに 浴衣を着せて貰って 
テンション上がっちゃった♡
紫優くんは 夏祭り 毎年 行ってた?」

「うん… まぁ…」

動揺の 収まらない俺は 詩史の質問を 
思わず 相槌を打つように 返してしまったが…
本当は 嘘だ。


詩史が 一緒じゃなきゃ 
夏祭りなんて 行っても 楽しくない。

俺は 詩史と 同じ時期から 夏祭りも花火も
行っていない。

勿論 友達や家族に 誘われた事はあるが…


『こういう景色は 詩史と見たい…』

そう ずっと 想って 断ってた。


想い続けた詩史が 
俺と手を繋いで 今 夏祭りに 行こうとしてる…


…っ 
 
胸に 込み上げてくる 想いを 無視する。


泣くなんて 恥ずかしいから…
空を見上げて グッと 耐えた。



夏祭りの会場は 祭り囃子や太鼓の音が 聞こえて
とても 賑わっていた。

この辺り一帯の 大きなお祭りなので
人の出も 多い。


「手を 離しちゃ ダメだよ?」

スルリと 手を離して
身軽に ふらつきそうな詩史に 注意する。

「はぁい」

子供じゃないんだから… と言いたそうに
詩史は 気怠く 返事をした。


グッと 詩史の手を握り直す。

死んでも 離すモノか…!と 
戦場へ向かう気分で 
夏祭り会場に 足を 踏み入れた。



数歩歩く度に 知り合いに会って
呼び止められる。

「よぉ! 紫優じゃん…!」


小学校時代の地元の友達、
かつてのサッカークラブメイト、
今の学校の メンバー などなど…

そうして 皆 一様に 詩史を見ては 息を呑む。


「…っ 倉田さん…?! マジ 綺麗…!
どこの女優さん かと 思ったわ…!」

「紫優の彼女? めっちゃ 綺麗な人じゃん…!」


知り合いに関わらず…

道行く人達が 詩史に注目しているのが わかる。

詩史も 視線を感じるらしく…
居心地が悪そうに 不安げに 俺の手を握ってくる。


そうそう…! 俺から 離れちゃ ダメだよ?


人酔いもし易い 詩史の様子を確認しながら
夏祭りを 進んでいく。

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