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飼い猫 🐈‍⬛🐾

第60章 傷心

恐れていた事が 現実になってしまった。

俺の心は 砕けて…
その場から 動く事が 出来なくなった。


『待って  璃音くん!』

俺の腕を 擦り抜けて…
詩史は 璃音を 追いかけた。

掴まえようとした手が 届かなかった。


「…っ」

ヤだ…! 詩史! 行かないで…


璃音は
俺や 愛茉と違って 本当に 裏表がない。

計算高くなく 寧ろ 不器用で
一生懸命なヤツだ。

俺みたいに 繕う 人間関係や
愛茉みたいに 自己中に振る舞う 人間関係を
する事が 出来ない。

なるべく 目立たず 存在感を薄く
人に 興味を持たずに 静かに過ごす。
そういうヤツだ。

動物や 自然が好きで
アイツが見せる笑顔は 純粋で
俺は 嫉妬さえ 覚える。

あんな風に 無邪気に 笑えたなら…

そういう雰囲気は とても詩史に似ている。

無邪気 素直 一生懸命…

不器用だけど 真心を 大切にしている部分が
2人は そっくりだ。

だからこそ…  惹かれ合うと 思う。

その証拠に
お互いが お互いを 気に入っていた。


トボトボと 無気力で 廊下を歩く。

窓に映し出された 自分を 不意に見つけて…
薄ら笑う。

まるで 生気が無い。


コイツなんかの どこが 学校のアイドルなんだ…。
どいつもこいつも 目が 腐ってる!


『紫優くんが アイドルとか… 世も末ね!
紫優くんの 作り笑顔に 皆 キャーキャー
言っちゃって… バカみたい!』


詩史は いつも 正しい。
そのキレイな瞳で 俺を嫌いながらも
仕方がない と 受け入れて
弱っていると 必ず 手を 差し伸べてくれる。


詩史…

どこに いるの?
今 璃音と 何を 話しているの?
悪い猫だ。  飼い主を こんなに心配させて…
帰って来たら お仕置きだ。


でも…

帰って 来なかったら…?


つー…っと 頰に 涙が 伝った。

不安が 押し寄せる。


詩史 詩史 詩史…

俺 詩史しか 考えられないよ…


「あっれぇ? 内海くんじゃないですか♪
もう 下校しなさい… って うえぇぇぇ…!!!」

向かい側から 歩いてきた 内海先生こと
怜央が 俺の涙に 狼狽する。

「ど… どうした 紫優!?」

「…怜央 俺… 死んじゃう…」

怜央の胸に 顔を埋めて 咽び泣く。


詩史が居ないと 死んじゃう…

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