無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

夏葉さんの奏でる　音を　聞きながら
しんみり　していると…

バイオリンの音色が　聞こえた。


猫が　耳を　ピクンと　動かす様に
私の耳が　バイオリンの音に　反応する。


紫優くんが　引き出す　音だ。


相変わらず　楽譜通りじゃなくて
でも　技術はあって…
昔聞いた音より　色気が　増していて

何より　その姿が…
悔しいけど　カッコいいんだ　な…。


演奏が終わると
ウチの両親が　拍手喝采を送った。


「アンタって　本当に…
相変わらず　譜面通りに　出来ないコね！」

夏葉さんが　呆れた顔で　紫優くんに　詰め寄った。

「でも…　悪くはないわ。
音に　深みが出て…　一応　練習は続けてたのね。」

ニコッと　笑った夏葉さんに
「まぁね…」と　紫優くんは　肩を　窄めた。


「俺が　弾こうと　思ったのに…
紫優に　バイオリン　取られた…！」

追い剥ぎにあった　みたいな
お兄ちゃんの　弱りっぷりに　微笑する。


確かに…　昔と　何にも変わらない…
平温な　誕生日会だ…


「お気に召して　頂けましたか？
お姫様？」

夏葉さんは　優秀な執事の様な　きれいな一礼を
してみせる。

素敵…　　とても　綺麗…　！


「はい。　とっても！」

私が　微笑むと
夏葉さんは　堪らん！　とばかりに
私に　抱きついた。

「ん　もぉ〜♡♡♡
詩史ちゃん♡　なんて　可愛いのぉ♡♡♡」

すりすりと　頬擦りして
これ見よがしに　紫優くんを　見やる。

お触り禁止令が　出ている　紫優くんは
悔しそうに　私と夏葉さんの　抱擁を
見届けていた。


そういう　悔しそうな　紫優くんの顔を
見るのも　久しぶりだ。


デザートも食べ終わって　
大人達が　歓談している間に
お手洗いに　立ち上がった。


戻ってくる　廊下の途中で　紫優くんに　会った。


「まだ　怒ってる？」

元気が無さ過ぎる　紫優くんが
気の毒に　思えてくる。

「全然。　怒ってないよ？」

私が　微笑むと
紫優くんの沈んだ顔が　ぱああああ…っと
明るくなった。


この人は…
どれだけ　私の行動に　一喜一憂するんだか…
と　内心　呆れる。


「さ…　触っちゃ　だめ…？」

凄く遠慮がちに　確認してくる。
夏葉さんの　禁止令が　効いている。


「いいよ。」