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止まない雨はない

第1章 マンハッタン

『………Please help him!………Please, save his life!』

彼が殴打されて血まみれになった口をわずかに動かし、
助けてくれ…と訴えている。


『Dr. Arthur, Isn't there patient who has been transported besides him?(アーサー先生、彼のほかに搬送された患者はいたんですか?)』

『He's dead. He is already “sterben”(彼は既に亡くなってたよ)』

彼が助けを求める“友”はストレッチャーに載せられ、ブルーシートが被せられ、既に遺体になってERの処置室に安置されていた。
左目と顔面に傷を負った彼は上杉タカシと名乗った。
日本からジャズピアノの武者修行に来ていたという。
あと、ほんの少し処置が遅れていたら、彼は左目の視力を失うところだった。

痛みと精神的に興奮がみられた為、ルカはその後内科医と交替し、
ERからまっすぐ帰宅の途についた。

…………Please, save his life.


自分があんなに重傷な状態にあっても、仲間を助けてくれ…と訴えていたタカシ。

『……どのみちオレは眼科だし…助けられっこなかったんだよ…
深く考えるのは……よせ………』

ルカは自分に言い聞かせるようにして、さっきまでのタカシの言葉を
振り切ろうとした。

同じ日本人だからなのだろうか?

彼のことが頭から離れないでいた。

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