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止まない雨はない

第4章 Bar Lucas

ハービーのアップテンポな曲を選んで弾いていた佐屋だったが、ヤマダの様子を察して、途中から別の曲に演奏を変えた。

「ま、それも人生でしょ、ヤマダ?
実際、お前はよーく頑張ってるよ。オレなんてリーマンなんか、絶対ムリムリ!」

タカシは片手をプラプラと振ってみせた。

「お前は偉い!」
「頑張ってるよ
「充分やってるよー」


などと、気の無い感じではあるが、タカシは人を励ますのがとても上手かった。

だからかもしれない。
社会でなかなか芽が出なかったり、傷ついて前に進めない連中が、このバーにタカシ目当てで集ってくるのだ。


するとまた、ドアが開く鈍い音がして、新たにお客が入ってきた。


「ああ、いらっしゃい。相変わらずお揃いで」


そして相変わらず、商売気があるのかないのか判らない、タカシのセリフ。


「よぉ!ここがオレたちのいきつけの店って決めてやってるのに、
相変わらずそっけないな、タカシ」


やってきたのは、アズマとクレハの大人なカップルだった。

この二人が入ってくると、さすがにルーカスもムーディーな雰囲気になる。


「注文は何する?」


アズマとクレハは店の片隅の丸テーブルに座って静かにピアノを聴いてくれる上客だった。
そしてその席は、いつもの指定席になっている。

「オレはロック、彼女はいつものカクテルで」


「了解。聞こえたー?マスター!ロックといつものカクテル~って!!」


オーダーをとった鳴海がタカシに叫んだ。

「へいへい…。そんなにデッカイ声で言わなくても、聞こえてますとも…」


タカシはさっそくシェイカーを格好よく振る。
昔、一流ホテルのショットバーで人気バーテンだった…という噂は、
もしかしたら嘘ではないのかもしれない。
なかなかその姿がキマっている。


「なーんか、スカしたふりしてカッコマンだって」


鳴海がへばりつくような目で見ている様子を横で感じ、
佐屋はピアノを弾きながら笑っていた。

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