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止まない雨はない

第5章 本命とラーメン

とある歓楽街の片隅に『山口クリニック』という、小さな眼科がある。

ドイツ帰りの凄腕の若い先生がいるらしい…ということで、
あっという間にクチコミで評判になった。


山口クリニックの医師の名は山口瑠歌といった。



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「はい、今日も目薬だしておきますね。
あともうちょっとでかゆみも収まってくると思いますよ?」

「はい、先生、ありがとよー」

「今度グラインダーを使うときは、ちゃんと防護マスクを使わなきゃダメだよ?
今回はたまたまよかったけど、火花だけじゃなくて、
熱をもった異物が入っていたらどうなっていたか…」

「おう…気をつけるよ。現場が暑くてさぁ…。防護マスクするのが面倒くさくてよ…」


作業着姿の患者を前に、ルカはにっこりと笑う。

「ゲンさんは独り者じゃないんだから、家族のために気をつけないとね」


「…先生までそんなこというのかよ、こりゃさっさと帰ったほうがいいな、ははは」

「お大事に」


ルカの診療所は規模が小さいのだが、連日満員になっている。
雑居ビルの2Fに位置しているが、そこへ続く階段にまで、患者が並ぶことが多々あった。

もっとも、彼のソフトな人当たりのせいもあるかもしれない。

歓楽街の患者はさまざまだった。夜の商売を生業にしている者、
その界隈に関わっている者(いわゆる、その道の者である)、生活弱者、とにかくどこからともなく集ってきていた。

そんなふうに慕われる彼を、とても心配している者がいる。
名前は上杉タカシ。BARルーカス のオーナー兼マスターだ。

「心配なんだよねぇ…」


今日も彼は店のカウンターで数え切れないほどの溜息をついている。
それを知っていてあえて無視をしているのは、
彼に雇われているバイトの二人。
ピアノ担当の佐屋と、バーテン担当の鳴海だった。

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