止まない雨はない
第5章 本命とラーメン
とある歓楽街の片隅に『山口クリニック』という、小さな眼科がある。
ドイツ帰りの凄腕の若い先生がいるらしい…ということで、
あっという間にクチコミで評判になった。
山口クリニックの医師の名は山口瑠歌といった。
*****************************
「はい、今日も目薬だしておきますね。
あともうちょっとでかゆみも収まってくると思いますよ?」
「はい、先生、ありがとよー」
「今度グラインダーを使うときは、ちゃんと防護マスクを使わなきゃダメだよ?
今回はたまたまよかったけど、火花だけじゃなくて、
熱をもった異物が入っていたらどうなっていたか…」
「おう…気をつけるよ。現場が暑くてさぁ…。防護マスクするのが面倒くさくてよ…」
作業着姿の患者を前に、ルカはにっこりと笑う。
「ゲンさんは独り者じゃないんだから、家族のために気をつけないとね」
「…先生までそんなこというのかよ、こりゃさっさと帰ったほうがいいな、ははは」
「お大事に」
ルカの診療所は規模が小さいのだが、連日満員になっている。
雑居ビルの2Fに位置しているが、そこへ続く階段にまで、患者が並ぶことが多々あった。
もっとも、彼のソフトな人当たりのせいもあるかもしれない。
歓楽街の患者はさまざまだった。夜の商売を生業にしている者、
その界隈に関わっている者(いわゆる、その道の者である)、生活弱者、とにかくどこからともなく集ってきていた。
そんなふうに慕われる彼を、とても心配している者がいる。
名前は上杉タカシ。BARルーカス のオーナー兼マスターだ。
「心配なんだよねぇ…」
今日も彼は店のカウンターで数え切れないほどの溜息をついている。
それを知っていてあえて無視をしているのは、
彼に雇われているバイトの二人。
ピアノ担当の佐屋と、バーテン担当の鳴海だった。
ドイツ帰りの凄腕の若い先生がいるらしい…ということで、
あっという間にクチコミで評判になった。
山口クリニックの医師の名は山口瑠歌といった。
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「はい、今日も目薬だしておきますね。
あともうちょっとでかゆみも収まってくると思いますよ?」
「はい、先生、ありがとよー」
「今度グラインダーを使うときは、ちゃんと防護マスクを使わなきゃダメだよ?
今回はたまたまよかったけど、火花だけじゃなくて、
熱をもった異物が入っていたらどうなっていたか…」
「おう…気をつけるよ。現場が暑くてさぁ…。防護マスクするのが面倒くさくてよ…」
作業着姿の患者を前に、ルカはにっこりと笑う。
「ゲンさんは独り者じゃないんだから、家族のために気をつけないとね」
「…先生までそんなこというのかよ、こりゃさっさと帰ったほうがいいな、ははは」
「お大事に」
ルカの診療所は規模が小さいのだが、連日満員になっている。
雑居ビルの2Fに位置しているが、そこへ続く階段にまで、患者が並ぶことが多々あった。
もっとも、彼のソフトな人当たりのせいもあるかもしれない。
歓楽街の患者はさまざまだった。夜の商売を生業にしている者、
その界隈に関わっている者(いわゆる、その道の者である)、生活弱者、とにかくどこからともなく集ってきていた。
そんなふうに慕われる彼を、とても心配している者がいる。
名前は上杉タカシ。BARルーカス のオーナー兼マスターだ。
「心配なんだよねぇ…」
今日も彼は店のカウンターで数え切れないほどの溜息をついている。
それを知っていてあえて無視をしているのは、
彼に雇われているバイトの二人。
ピアノ担当の佐屋と、バーテン担当の鳴海だった。