担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
ハヤテは他の客に呼ばれたようで、連絡先交換の後すぐにいなくなった。
たった数分。
それだけで、こんなにも濃い。
ホストにハマる女性の気持ちが分かる。
恋愛なんて簡単な感情じゃない。
あんな完璧な男が隣に座る。
話をする。
楽しませてくれる。
それもお金次第で時間と内容も変わる。
ハマるわけだ。
「初めまして、凛音さん。ニイノと申します」
明るいオレンジスーツの銀髪男が現れ、びっくりしてお辞儀を返す。
「すみませんね。ハヤテ短くて。戻ってくるまで、僕とお話しましょうか」
ニイノは祥里と同じくらいの背丈で、髪型も色が銀ということを除いてそっくり。
声は少し低めだけど。
「お隣、失礼しますね」
ハヤテとは、逆側に。
ローズのような甘い香りがする。
「初めてのホストクラブはいかがですか。緊張されてらっしゃいますね」
「はい……慣れなくて」
「動画と比べてどうですか」
「実物の方が格好いいですね、肌も綺麗だし、トークも上手くて」
「くくく、ハヤテが羨ましいですね」
ニイノは白く長い両手を組んで、テーブルにもたれるようにして顎を乗せた。
それから、ちらりとこちらを向く。
「ハヤテは火曜以外はおりますので、安心していらしてくださいね」
「休み少ないんですね」
「といっても僕らは五時間勤務なのでね」
無理はしてないよと。
素直にいいなあと思った。
五時間で帰れたら、もう少し世界が違って見えるだろう。
「アフターとかあったら、大変じゃないですか」
素人丸出しの質問だけど、気になっているんだから仕方ない。
ニイノは優雅な動作で唇を親指でなぞり、回答を思案する。
「確かに僕らは仕事だけど、ここに来てくださる姫様を喜ばせるのが僕らも喜びです。アフターも毎日ある訳じゃないですし」
「そうなんですね……」
ちびちびとシャンパンを飲みつつ、空になったロゼのグラスを見る。
もう戻ってこないかもしれないと思いながら。
夢のような時間はあっという間にすぎて、十九時半に会計を済ませた。
見送りに出て来たハヤテが、パチンと両手を合わせる。
「ごめん、今度はもっと話そうな」
「いえ、お顔見れただけで良かったです」
腰の低い態度は似合わない。
早めに手を振り、エレベーターの扉が閉まるのを待つ。
姿が消える直前、ハヤテはトン、と自分の額を指さした。