担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
心はもうアイドルの初めての握手会に出向いた時の少女の気持ち。
「これが好きってことは、凛音はいじめられたいタイプだ。俺が好きなタイプ」
メニュー表を手に取りながら、愉快そうに。
「俺もなんか飲んでいい?」
「も、もちろん……」
「初めてだもんねえ……ノンアル飲んでるでしょー……じゃあ、グラスでロゼでももらおうかな」
パチンと表を閉じると、すぐにマサヤがやって来た。
連携が鮮やかだ。
「ロゼ一つ」
「かしこまりました」
それから腕を組んでソファに身を預ける。
「いやー……動画もやってみるもんだね。再生数は微妙だけど、こうして会いに来てくれる子がいるもんだ」
三十過ぎてから、子と呼ばれるのは初だ。
そういえば、年齢は書いてなかった。
サングラスの位置を直すハヤテに、声をかけようとしたのに声が上手く出ない。
緊張が限界を達している。
どうしてこんなに整った顔の男性を前に、話しているのだろうと脳が混乱する。
「凛音は、お酒飲めないんだ」
「いえ、このあと彼氏帰ってくるんで」
「あー。秘密工作だ」
「そうです……」
心底楽しそうにニタニタと唇が上がる。
うわ、ずるい。
なんて、似合うんだろう。
悪い笑みが。
「そしたら、これも秘密にする?」
聞き返そうとする前に、ハヤテが顔を近づける。
額がコツリと当たった。
鼻息すら当たる距離で。
時が止まったような衝撃に、動けずにいると、身を起こしたハヤテが口に手を当てて笑いに震えた。
「反応やばっ。ファンじゃん」
何か言わないとなのに。
何も出てこない。
だって心臓がうるさすぎる。
「ごめんごめん。もうしないから。安心して。嬉しかったんだよ、会いに来てくれて」
あまりに固まってしまったので、繕うように後付けする。
化粧のせいかもしれないけれど、毛穴もほとんど開いてなくて、したまつ毛が意外と長かった。
マサヤが持ってきたグラスを手に、トントンと肩を指で突かれる。
「乾杯してくれるかな」
「は、はい」
カチン、と小気味よい音。
「凛音は全部が可愛いね。初々しくて、俺のがハマりそう。次いつ会いに来てくれんの?」
ロゼを飲み干しつつ、ハヤテが上目遣いで優しい声を投げかける。
「えと、近いうちに」
「じゃあ、来る時連絡して。連絡先交換しよ」
わあ、鮮やか。
携帯画面の名前に心踊った。