担当とハプバーで
第7章 皮肉のパーティ
会社に着いて、指輪を外す。
最初の頃は気にせずにつけていたが、マウスの操作やイヤホンマイクを触れるときに当たって邪魔だったので、仕事中は外すことにした。
「おはようございます」
凛音の声にちら、と視線だけ横を見る。
通りかけた花梨に挨拶したらしい。
「あら、寝不足? 無理しないでね」
「いえいえ……すみません」
隣の席に腰掛けた彼女の横顔は、確かに疲れが漂う。
ぎし、と重心をずらして椅子をきしませて、小声で尋ねる。
「またホスクラ行ったの?」
「うるさい」
ぴしゃりと。
目も合わせずに始業準備を進める。
「んだよ、図星じゃん」
「違う」
「彼氏が寝かせないわけないでしょ」
「もう静かにして」
声のボリュームが上がったので、焦ったように凛音は下唇を噛んだ。
同僚に注目されるのも気分が悪い。
大人しく前に向き直る。
万が一にも親父に手をつけられてないよな。
だめだ、気になる。
昼休みが秒で来いよ。
休憩時間に入り、ガヤガヤと一気に気の抜けた声に溢れるフロアで、意気揚々と立ち上がる。
「葉野さん、ランチ行こ」
じっと見つめ上げてきた表情に笑いが溢れる。
「いいでしょ」
「……ケーキ食べれるとこにして」
「おっけえ」
着いてくる気配に頬が緩みながら、オフィスを出る。
ケーキか。
カフェってことだよな。
この辺ならいくらでもある。
近いとこは混むから、喫煙有りだけど穴場に行くか。
カランカラン、と涼しい音の鳴る扉を抜けて、こじんまりした店内に踏み入れる。
ふわっとタバコの香りがするので振り向くと、凛音は無言で指で輪っかを作った。
問題ないってことね。
店員の先導で、ソファの向かい合った席に案内される。
縦長のメニュー表を広げると、ケーキセットあたりのエリアをじいっと眺めている。
「ここパスタ美味しいけど」
「サンドイッチとケーキにする」
「じゃあカフェオレがオススメ」
「それにする」
呼び鈴を鳴らして、手早く注文を伝える。
二人きりに戻ってから、凛音は肩を緊張させながらお冷に口をつけた。
「……本当にホスクラには行ってない」
ぶっと吹き出しそうになって、口を押さえた。
怪訝な顔した凛音にさらに手が震える。
「いや……そんなん絶対図星だろ」
「違う。本当に違うの」
何か訳ありかよ。
お冷の氷を一つ口に含む。