担当とハプバーで
第7章 皮肉のパーティ
テーブルに頬杖をついて、カフェの背景の中で浮き立つ彼女を眺める。
いつも以上に余裕がなく、落ち着かないそぶりで髪をいじったり、スカートのシワを直したりする姿を。
「あのさ、有岡くんはさ」
「お待たせしました」
言いかけた言葉をぐっと止めて、湯気の立つポモドーロと照り焼きサンド、オレンジティーとカフェオレが並べられるのをじっと見つめる。
浅くお辞儀をした店員が去った後で、氷を噛み砕いてから手をパチンと合わせた。
「食べよ」
「うん。いただきます」
フォークでくるくるとパスタを巻きながら、サンドイッチにかぶりつく豪快さに微笑む。
自分のことを一切恋愛対象に見てないのがよくわかる。
むしろ油断ある姿でも見せていいってことか。
どっちにしろ笑える顔。
ムグムグと噛み下し、ギッと睨み返してくる。
「見てないで、食べなさいよ」
「いやー。何話すんだろって思って」
綺麗に巻き取った塊を唇につけないように口に運ぶ。
服に飛ばすなんて絶対ダメなメニューだ。
ストローを加えてティーを飲む。
清涼な味が喉に降りていく。
「オレに関する質問だったみたいだけど」
二つに切られたサンドイッチの一つを食べ終えて、紙ナプキンで口周りを丁寧に拭うと、凛音は視線を上げた。
「有岡くんはさ、ファン食べまくってるっていってたでしょ」
今度こそ噎せた。
右手で強く頬を掴んで、ゴホッゴホッと咳き込んだ後で、お手拭きで手を清める。
「流石に公共の場でそれ言うなよ……」
「ごめん。あの、本当ごめん」
流石にファンが居合わせているとは思わないが、本能的に店内を見渡してしまう。
中年男性のグループ、老夫婦、若いカップル、女性のソロ客、今のところは問題ない。
「で、理由は?」
親父の話題になるなよと祈りながら。
「あの、さ……ファンに本気になることある?」
その目を見れば、真意が見て取れる。
だから、敢えて、断言した。
「ない。全然ない」
「そう、だよね」
「ファンってさ、自己肯定感をすごい高めてくれんの。最初から大好きなわけでしょ。こっちは仕事さえしてれば勝手に好き度を増してくれるわけで。幻滅さえされなければ、切れることもないし。よくてセフレ、合わなきゃワンナイトじゃないの」
凛音がカフェオレをちみちみと飲む。
「ホストなら尚更だろ」
なんでわかったの、じゃねえよ。