担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
浮気をしようと何度か思った。
レスになってから。
祥里に出会う前まではワンナイトの経験もあったし、初対面の男性とドキドキする会話を楽しむこともあった。
恋人と長く一緒にいたら、結婚があって、子育てがあって、新たな幸せがそれを上回ってくれると信じていた。
でも結局恋人のままでは、ただパートナーを縛るだけでしかないのだ。
三年経っても結婚しない男は捨てろ、と恋愛エッセイに綴られていた。
私は一年判断が遅れて、今さら一歩を踏み出せずにいる。
親はガッカリするだろう。
いや、優柔不断を捨てて良くやったと褒めてくれるかもしれない。
でも、すぐに新たなパートナーができず、四十をすぎて後悔したら、とも思う。
うがいを済ませてベッドに横になる。
恋、か。
新たな予感に馬鹿みたいにワクワクする儚く一瞬の期間。
祥里のどこに惚れたかなんて、もう忘れてしまってる。
顔だったかもしれない。
仕事ぶりだったかもしれない。
それが当たり前になってからは、目につくのは嫌なとこばかり。
そしてレスになってからは、雄としてダメな個体を捕まえてしまったと落胆した。
いやだな。
祥里の気分次第で、このレスは続く。
私の体は老いていく。
抱かれる喜びを忘れてく。
ひょこりとハヤテの顔が浮かぶ。
舌長くてやらしそうだったな。
髪を下ろしたら、いい香りがしそう。
激しいんだろうなあ。
鍛えている肩幅だったなあ。
こんな妄想なんて久しぶり。
優しく当てられた額と、その時視界を独占した鋭い両目を思い出す。
あの角度で、ベッドに居たら……
足の付け根が熱くなる。
指を伸ばすと、こもった熱が湿り気を帯びる。
もし、一夜だけでも共にできるなら。
ああいう人がいい。
祥里が入ってきて思考が止まる。
「凜音、もう寝た?」
ギジリ、と隣に横たわる。
キングサイズのベッドは、大人が二人寝ても窮屈さを感じさせない。
馬鹿だ。
虚しい。
すぐにいびきを立てる後ろの男に、罪悪感を感じているわけじゃない。
とっくに諦めたロマンスに胸をざわつかせる自分が虚しくてたまらない。
居心地のよい男を選べだって。
違う。
性欲の息が長い男を選ぶべきだった。
かつ、浮気をしない男を。