担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
翌朝、私より先に出ていった祥里の残した食器を片付けて、前髪をセットする。
久しぶりにヘアアイロンを取り出し、内向きに巻いてみる。
そろそろショートにしたいけど、ロングが好きな祥里の言葉に、馬鹿正直に髪型を維持し続けている。
また、つまらない日常が始まる。
仕事を定時に終えて、デスクを片付けつつ、新作動画通知に顔が緩む。
「なに、葉野さんイイコトでもあった?」
隣の席の有岡浩司が茶化すように話しかける。
二十五歳、ベースマンのマッシュルーム赤髪。
髪型自由で時給千五百円を目当てに、副業として入社してきた。
この後ライブがあるのか、仕事中外していたゴツイ指輪を両手の中指と薬指に丁寧に嵌めていく。
「ないよ、別に」
「嘘だあ。声も明るかったよ?」
年下だと言うのに敬語を使う気は初めからない。
愛煙家でタバコ休みが多いが、お客様評価が高いのでお咎め無しの器用な男。
「今夜ライブあるけど来る?」
「行かない」
「ドリンクサービスするよ」
「行かない」
「彼氏にバレるの気にしてんの」
「してない」
「オレのステージ見たら惚れちゃうかもよ」
「絶対ない」
「手厳しいわー」
元々本気じゃないのだろう。
あっさり引き下がって荷物をまとめて出ていく。
ああいうタイプは二十代前半で懲り懲り。
年上をからかって暇つぶしてるんだろう。
ため息を吐いて立ち上がる。
早く新作見たい。
電車に乗り、イヤホンをつける。
隣の人に音バレしたり画面を見られるのが嫌なので、しばらく開かない方の扉にもたれかかる。
帰宅ラッシュと言えども千葉方面は段々と空いてくる。
端の車両に乗れば、不快な思いをすることは少ない。
動画サイトを開き、登録チャンネルをタップすると、新着動画がピックアップされていた。
「え……もう二十万再生超えてる」
この一年の動画の平均再生が三十万前後なので、アップされて数時間で迫る勢いに期待が高まってしまう。
人気企画はあるある動画。
今日の新作は……
「好みのタイプが来た時あるある」
最初はトップホストのナオキだ。
金髪ヴィジュアル系で、弟のような可愛らしい仕草のギャップが売れてる理由だろう。
「うわー、めっちゃ綺麗やね。逆同伴申し込んでもいい? 行きつけのホテルがあるんだけど」
吹き出しそうなのを堪える。