テキストサイズ

担当とハプバーで

第1章 止まらぬ欲求


 たかだか一年分の動画を見ただけだけど、既に馴染み深いキャラに愛着が湧いている。
 次位は黒髪真ん中分けのウルフヘア、二十七歳のタツだ。
 古風な名前に、今風の外見。
 前髪をいじりながら、ふふっと笑う。
「おれね、この前髪ね、右が二千八本で、左が三千四百本なの。今度数えてみる?」
 天然とも違う、独特な世界観のタツらしい回答にまたも頬が緩む。
 それにしてもその本数の差はありえない。
 ガタンガタン、と電車の揺れを足で感じながら、目当てのハヤテの番になる。
 映った瞬間に胸が高鳴る。
 前髪を触覚のように二本垂らしてる。
 それが揺れるだけで凄い色気。
「ちょっと、姫。今までどこに隠れてたの」
 あれ、少し声を作ってる。
 優しく甘い声に油断した。
 サングラスを頭にズラして画面に近づく。
「ちょータイプなんだけど」
 それからこつんと、画面に額をぶつける。
 あまりにドアップで笑ってしまう。
 そして、記憶に重なって呼吸が止まる。
 額……まさかね。
 サングラスをかけ直してから口に手を当てて、素笑いを零してる。
 可愛い。
 やばい、さらに好きだなあ。
 チャラい口調も。
 とても本気には見えない緩さも。
 自然体なセリフも。
 ついついシークバーで巻き戻してしまう。
 四回ほど見てから、満足した。

 家に着き、朝のままの空間に虚しさを感じながら夕飯の準備をする。
 買いだめしていたキムチと冷凍の豚肉、白菜でスープを作ればいいや。
 携帯を見ると、今夜は接待で遅くなると連絡が入っていた。
 この時代にまだ接待が必要なのかしら。
 了解、と打ち返してシャワーを浴びる。
 二十代の頃より体の至る所のだらしなさに目が向いてしまう。
 腰骨の下の贅肉。
 鎖骨ラインの吹き出物。
 顔の産毛。
 パッと見は誤魔化せても、自分の目は拾い上げてしまう。
 花梨のようにジムに行こうか。
 祥里が見てくれる訳でもないのに。
 あるのかわからない次の夜のために。
 ドライヤーをかけながら首を振る。
 いやだ。
 もういやだ、そんな夜生活。
 恋人より職場優先の彼氏の隣で萎れてくなんて絶対ごめんだ。
 誰か別でもいいから、抱かれたい。
 日に日に強まる不満も爆発が近い。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ