担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
「えー、一週間ぶりだよね。凛音ちゃん。こんばんはー、今日は紺のシャツでシックだね」
一週間しか持たなかった。
私の我慢。
動画よりも高画質な本人を前に、グッと下唇を噛みたくなるのを堪えて乾杯する。
「本指名ありがと。もう俺以外のホストに寄り道する手間省けて良かったな」
今日は序盤から飛ばして飲んできたのか、耳が赤くなっているハヤテ。
ご機嫌に足を組んで、ぴったりと隣。
高級車のような香りのコロンに、耳に煌めく二連ピアス。
サングラスの隙間から見える長い睫毛。
だめだ、格好良い。
「新作見た?」
「見ました……」
ニヤニヤと額を指で差す。
一体何人に……。
私だけなんて自惚れるわけが無いのに。
特別感を受け取ってしまう。
「凛音は、本当タイプよ。俺ねえ、滅多にこんなこと言わないから。信じて」
「そんな歯が浮くような」
「浮かせてないだろ」
イーッと歯を見せられて、意味が違うと突っ込む言葉もどこへやら、その白さと犬歯の鋭さに見入ってしまう。
ハヤテは視線に気づいて、バッと口を隠した。
「なんかついとった?」
「いえ、綺麗だなあって」
「焦ったあ。ダメだろ、そんなじろじろ人の歯見つめちゃ……」
「見せてきたのハヤテさんじゃないですか」
「お? 二回目にして遠慮ない口調になってきたねえ。生意気な女も好きだけど、もうちょい俺のファンなとこ見たいなあ」
とっくに手のひらの上なのに。
グラスを傾け、喉を上下して飲む姿も、暑そうに首もとをさする仕草も、目が合って持ち上がる唇も全部が鮮やか。
「でも動画色々見てたらさ、うちのホストに詳しくなっちゃうだろ」
「なりますね」
「たとえばー……あいつ、名前は?」
「タツさんです」
「じゃあ、あそこの緑メッシュ」
「イオルさんですね」
「めっちゃ見てんじゃん。イオルとか旅動画にしか出てなくない? え、どこまで見てんの」
「二年前まではほとんど」
目を丸くしたあとで、豪快に笑う。
でも口元には手を添えてるのが可愛い。
「ひっははは、やっば。動画始めたのうちのオーナーてかチーフ? なんだけどさ、紹介してあげたくなっちゃうな。喜ぶぞ、あの人」
言わばこれはファンミであって。
直接感想を伝えられる至福の時間。
二回目だから三万は覚悟してる。
「何飲ませてもらおかなあ」
足りない気もしてる。