担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
また落ち着いた音楽に切り替わる。
高い注文が入ると注目を集める仕様なのかな。
「凛音はどんな動画見たいとかある?」
うーん、と顎に手を当てる。
供給はなんでも嬉しい。
でも届かないコメントじゃなくて、こうして聞いてくれるのはファン極まりではないか。
「悩みすぎ」
「一個じゃなきゃダメ?」
「だーめ」
ウィンクしながら。
余裕たっぷりに。
そうか、一個かあ。
「じゃあ、考えとる間に凛音の爪でも見とくかな」
「えっ」
シンプルなネイルしかしてないのにと焦ったのも一瞬で、手を触られたことに全身が一気に熱を帯びる。
持ち上げられた手に指が絡み、あっという間に恋人繋ぎ。
そこに顔を近づけて、じーっと視線が注がれる。
美しすぎる造形の横顔。
サングラス越しじゃないつり上がった切れ長の目。
呼吸が当たりそうな指先。
無理。
心臓が無理。
「結構綺麗にしてるね……っぶ、ははは! 顔やば!」
せっかくいい声で褒めようとしてくれたのに。
ばっと手を離して顔を覆う。
埋まる穴を探さないと。
抱腹絶倒してる隣の男が犯人なのに。
「はーっ、笑った。ごめん、ごめんって。気軽に触らんようにするから。落ち着いて、ね?」
背中をポンポンと。
たかが手を繋いだだけなのに。
推しにされるとこんなにまだ心臓は騒いでくれるの。
そうっと見上げると、涙を指先で拭いて笑ってる。
逆に……。
ふと考える。
逆にこの人の心臓を騒がせるのはどんな女性だろう。
きっと映画の中に出てくるような雲の上の美女。
強気で、濃い口紅で、いるだけで華が咲く。
そんな女性とベッドを共にするんだろうな。
なんてことを。
「え、今度はなんでそんなニヤケてんの?」
「思いついた……」
「なーに」
「リクエスト。恋の失敗談聞きたい」
「ちょっとー。仮にも俺ホストなんだけど。そんなダサい話されて楽しめる?」
全身が熱いので、水割りをゴクゴク飲む。
おしぼりで口を拭おうとしたら、先に手にしていたハヤテに軽く拭われる。
こんな動作一つが非現実を盛り上げてくれる。
「あんま強くないだろ。残りはゆっくり飲めよ」
「優しい……」
「失敗談かあ。確かに盛り上がりはするけどなあ。ほとんど使えんトークになるだろな」
「あ、だから配信とかしないの」
「配信はリスキー」
人差し指を振って。