担当とハプバーで
第3章 踏み入れた入口
そこで運ばれてきたビールでつい乾杯に応じてしまった。
だって仕事上がりに居酒屋なんて、何ヶ月ぶりかも思い出せない。
「女が変わるのなんて推しが出来た時か恋愛絡みか二択だろ。今日もだけどさ、最近化粧も変えてるし、コーデも前より若くなった気がするし」
「なんで隣の同僚をそこまで監視してるのよ」
「そりゃー、ねえ。手近なファンより難攻不落な同僚でしょう」
「最低」
串焼きが来たので、砂肝をつまむ。
「まあそれは冗談として……結婚できないのを愚痴ってたけどさ、今の葉野さんなら再恋愛のハードルも相当低いし。もう遊び始めてたりするのかなって」
「本当やめて。浮気なんて馬鹿みたいなことしないし。してたら、とっくに別れてるし」
「相手はしてないと言いきれんの?」
ビールの最後の一口を飲んだ時だった。
不意をつかれたその言葉に、何かが堰を切って流れ出してしまいそうになる。
急いで鯖の照り焼きに箸を伸ばす。
いつ運ばれてきたんだろう。
皮ごと剥げて、その塊をほぐしてると、なんだか心がぐちゃぐちゃしてきた。
「……してないよ」
諦めて箸を置く。
気づけば二杯目がオーダーされていた。
二杯目は、焼酎がいいのに。
なんでハイボール勝手に頼むの。
「してるわけない。そりゃ広告業界だし? 付き合いだってコルセンに比べ物にならないくらい多いし? 毎晩日付跨いで帰宅して……定時なんて二年前くらいが最後だし。記念日なんてなんにもないし? そもそもレスだし」
あ、やば。
目の前にいるのが異性だと言うのを忘れるほどに暴走しかけた。
顔を上げると、有岡は神妙に腕を組んで聞いていた。
「で? 浮気してない理由聞けてないけど」
ハイボールを半分ほど一気に飲んでから、さらに追い打ちをかける。
「シてない理由は沢山聞けたけど?」
かあっと顔が熱くなる音が聞こえるよう。
無理なんだけど。
違う違う。
相手はハヤテじゃないのに。
油断してこんなに本音を。
だって、お酒が美味しいから。
金曜の夜だから。
有岡が格好いいから。
どれも欲求不満の言い訳だ。
「疑ったことくらいあんでしょ」
「……あるよそりゃ。知らない香水の香りなんて毎週だし。キャバだかクラブだか知らないけどさ。でもなんか……浮気? アイツが? いや、されてたら」
ごくんと飲み下す。
「意味ないじゃんね」