担当とハプバーで
第3章 踏み入れた入口
あーあ。
友達にも話したことないのに。
親にだって。
ハヤテにもまだだっけ。
最近メンタルおかしいからかな。
こんなチャラいバンドマンに。
なーんで話しちゃうかな。
箸を持ち直して、鯖をつつく。
有岡は頬杖をついて、じーっと見つめてきた。
なによ。
なんですか。
「葉野さんてさー。勢い余ったら何でもやっちゃいそうな空気あんだよね」
「どういう意味よそれ」
「女性用風俗とか、ギャンブルとかにハマんないといいけど。ホストとかさ」
気管に入った。
動揺で噎せこむ。
おしぼりで口を押さえると、涙も出てきた。
「今、すごいこと言わなかった?」
「オレは葉野さんの反応のがやべえと思ったけど。どれに心当たりあんの」
ダメだ。
誘導尋問だ。
流そう。
「私下ネタも賭博も嫌いだから」
「じゃーホストは好きなわけだ」
「ホストも含まれてます」
「反応が遅れたのは何で」
「酒がまずい話題だから」
「いいや、図星だからだ」
二杯目も炭酸だと重いんだってば。
呼び鈴を鳴らして梅酒水割りを頼む。
有岡はジンライム。
余裕綽々ね。
「そっかあ、すげえ納得。アイドルだの歌手だのガラじゃねえし。社内は有り得ねえでしょ。ホストかあ……ねえねえ、誰?」
「言いません」
「やっぱ大手のプリンシズ? それともバズってる夜明けのジャック?」
店員が現れた瞬間でよかった。
顔に出る前に梅酒を受け取れた。
そうだ、コスプレ動画百万再生超えてた。
そんな身近な人にまで動画が届くんだ。
超有名人じゃん。
「違うし」
「あ、じゃあホストは確定だ」
「あんたこそ、キャバだのガールズバーだのにお金落としてそうだけど」
「逆逆。貢いでもらってんの。そういう界隈のファンも多いよ。羽振りもいい」
調子いいんだから。
なんて返事してこの飲み会がセッティングされたのか、思い出せない自分が腹立つ。
この男と飲んで良いことが起きるわけない。
「ねえ、これ飲み終えたらもう行くから」
「今度新宿でライブあるから。チケットだけ貰ってってよ」
「払わないよ」
「タダであげる。浮気相手には最適だよ、オレ」
つーっと机を滑るように渡されたお札大のチケットを手に取る。
二千円にドリンク五百円。
ああ、そういうこと。
「じゃあ今夜は私の奢りね」
「いいえ、出します。大収穫だったし」