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担当とハプバーで

第1章 止まらぬ欲求


 それは新ホストクラブの宣伝。
 写っているのは茶髪の盛り髪のホスト。
 しかし脳裏には動画の男が現れた。
 低い声と、三白眼。
 サングラスの向こうでニヤつく視線。
 確実に刺青を隠した黒シャツ。
 ホストクラブに行けば、あの人と話すことができるんだ。
 急に心臓が早鐘を鳴らす。
 ばか、何考えてるの。
 早くホームに戻らないと。
 そう思いつつもカバンから定期入れを取り出して、改札に足が向かう。
 そうだよ、まだ十八時半。
 祥里が帰る前に寄り道くらい、許される。
 一時間。
 一時間でいい。
 新宿になど滅多に降りないから、少し観光するだけ、自分に言い聞かせる。
 むわっとする人混みに運ばれて、歌舞伎町方面の出口を上がる。
 赤いネオンと喧騒。
 まだまだこれからが始まりだと言わんばかりの熱気に満ちている。
 客引きへの警戒アナウンス。
「そうだ、住所……」
 店の名前で検索し、営業時間と場所を確認して足を進める。
 映画を見に来たカップルや、ホテル街に入っていく男女。
 夜職であろう派手な見た目の面々。
 ああ、刺激が強い。
 そもそもこんな格好でホストクラブに行っていいのか、とショーウィンドウに問いかける。
 秋口に合わせた薄いピンクのブラウスに、新緑のスカート、ベージュのスニーカー。
 髪は乱れてないけれど、ファンデがよれてる。
 小さく首を振って自嘲する。
 何を気にしてるの。
 そもそも馬鹿な思いつきなんだから。
 目当てのビルにつき、とてもいい香りとは言えないエレベーターに乗り込む。
 階数ボタンを押す前に少し躊躇った。
 さすがに店の前まで行ったら引き返せない。
 今やめれば、気の迷いで済む。
 本当に行くの。
 ホストだよ。
 怖いバックがついてたりするよ。
 ボッタクられたらどうする。
 そもそも五千円ですらも大金よ。
 冷静になって。
 迷った心にハヤテの顔が浮かぶ。
 ボタンを押す手に力が籠った。
 にわかファンが推しに会いに行くのに理由なんていらないのだ。
 この歳になってもドキドキをくれる存在があるなら、経験してもいいじゃないか。
 目当ての階にて扉が開く。
 煌びやかなフロアが目の前に広がる。
 すぐに黒スーツの若い男性が会釈した。
「夜明けのジャックへようこそ、お姫様」
 来てしまった。

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