担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
急にどぎまぎとしてしまう。
「あ、あの。初めてで……」
「そうでしたか。足を運んでくださり、誠にありがとうございます。当店のシステムをご説明しますので、どうぞこちらへ。お荷物お預かりしましょうか」
「いえ。これだけなんで」
ニコリと微笑んで先導される。
黒い壁にライトが並ぶ。
ピンクと青のネオン色でジャックの文字。
すでに客で賑わう店内に招かれて、U字型の白革張りのソファに促される。
緊張で頭痛がしてきた。
たった一時間前までは職場にいたのに。
何の作法も分からぬホストクラブに座ってる。
「初めまして。マサヤと申します。本日のご案内を努めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「あ、こちらこそ」
緊張が伝わったのか、優しく微笑まれる。
「どうぞ、リラックスしてください。まずは当店のご利用についてですが、指名制となっております。初めてとのことですので、もし目当ての方がいらっしゃらなければ……こちらの一時間パックで複数のホストとお話いただけます。初回の方はそちらから好みの方を探していただくのが多いです」
「あ、でも……」
「失礼いたしました。お目当てのホストの名前を頂戴できますか」
丁寧な口調に緊張が解けていく。
ビジネスライクだ。
「動画で拝見した、ハヤテさんという方と会ってみたいんですが」
男が愉快そうに眉を上げた。
「ハヤテですか。お目が高いですね。うちのナンバースリーです。すぐにお呼びします。ただし、ナンバー入りしているので、お時間に限りがある点をご了承ください」
「はい。大丈夫です」
「動画というのは、ちなみにうちの公式チャンネルですか?」
「あ、はい。昨日流れてきて……カッコ良すぎて来てしまいました」
「ふふ、そうでしたか。光栄です。それでは、ファーストドリンクをお持ちしますので、メニューからお選びください」
「ノンアルありますか」
「ええ、そちらに」
「じゃあ、ノンアルシャンパンで」
「承知いたしました。少々お待ちください」
入れ替わるようにグラスとおしぼりを運んできた青年が、見惚れるような動作でテーブルに並べる。
この人もホストなんだろうか。
「ハヤテも直に参ります。失礼いたします」
声かけが丁寧だ。
不安にさせない間と距離感。
もっと、遠慮のない接客かと偏見があった。
もうすぐ、会えるんだ。