担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い
少し考えてから、言葉をまとめる。
「そう、ですね。私実は婚約者がいて、でも三年くらいレスが続いているんですよ。このまま結婚しても女性としての幸せはないんじゃないかなって。それにちょっと浮気の気配もあって、今日は勢いで来ちゃいました」
ことらが目を光らせたように見えた。
ゆあは一瞬顔を歪ませた。
「へえ、それは辛い境遇でしたね。失礼ですが、彼氏さんは僕らよりも年下ではありませんか」
「そうです。枯れるには早すぎますよね」
ついハヤテの言葉を引用してしまった。
ジンはゆあと話したいようで、肩に腕を回して二人だけの世界に入ってしまった。
一杯目を飲み終えてしまったので、オススメされた通りにテキーラコークを注文する。
出来上がるまでの間に、ことらが椅子を寄せて密着するように座った。
距離の近さもここだと常識の範囲内かもしれない。
祥里以外に踏み入られたことが久しいパーソナルスペースに、背中がゾゾっとする。
近くで見ると、毛穴が目立つ肌で、歯並びも少しゆがんでいて、目つきは意地悪く見えた。
「レスで来る方はとても多いですよ。とても多い。それも乙葉さんみたいな美人が多い。世の中の男は馬鹿ばかりだ。美しい嫁を手に入れても外に刺激を求める」
「だからこういうバーが成り立つんですよね」
「そう、その通り。レスじゃなくても来ますよ。もう一度丁寧に探り合うような夜を経験したい、と」
探り合うような……。
それはとても魅力的な響き。
店内の男女ペアを見回す。
今夜限りの関係を楽しむ他人。
つい、その客同士の性行為を想像してしまい、口に手を当てた。
なんて場所だろう。
渡された二杯目をグビリと半分ほど飲む。
素面で過ごすには異質すぎる。
倫理観など持ってはいけない。
「ことらさんは、何十人とここで夜を過ごしたんですか」
「おおっと、だからゆあさんに経験年数を言われたくなかった。そんなに数は多くないですよ。毎週通っているわけでもなし、年に数回程度の趣味です」
「どういうタイミングで、この人とってなるんですか」
ことらがふふ、と微笑んで手を握ってきた。
湿った指先に、ぞくっとする。
「寂しくてたまらない顔を見たときですかね。今の乙葉さんのように」
「お会話中に失礼致します。乙葉様、場内の案内をさせていただきますので、こちらへ」
受付の男だった。