担当とハプバーで
第1章 止まらぬ欲求
ノンアルシャンパンは飲みなれたサワーのような味で、つい飲み干してしまいそうになるのを我慢する。
初回と言えども、料金はある程度の高額だろう。
ちゃんと節度を持って飲まないと。
おしぼりで手を拭いていると、光沢のある革靴が視界に入った。
すっと片膝をついて、オールバックの頭が丁寧にお辞儀をしている。
「ご指名ありがとうございます。ハヤテです。会いたかったですよ、お姫様」
ゆっくりと顔が上がる。
動画で見たあの顔が、こちらを向いた。
意地悪そうな目に、ニヤついた薄い唇。
ゴツゴツとした手の甲に、喉仏。
襟から覗く刺青は、小さな天使が手を伸ばしているような絵柄だ。
不躾に眺め回してしまったのを恥じつつ、ぺこりと頭を下げる。
「あ、えっと……初めまして」
「お隣、よろしいですか」
「……もちろんです」
服を正しながら立ち上がると、モデルのような長身にボーッとしてしまう。
動画と同じ、赤いラインの入った黒シャツ。
隣に腰かけ、ぎし、とソファが鳴る。
太ももが、触れそうだ。
高級な洋服屋のような香りがする。
耳、大きい。
リングピアスだけでなく、上の方にシルバーのカフスもついてる。
それだけで作品になりそうな造形。
「お名前を聞いても?」
「り……凛音です」
「リオンさん……凛音。よく来てくれたね」
流れるような口調の切り替わりに、プロの技を見たように感動してしまう。
「格好いい……ですね」
やばい。
痛客だ。
変な反応してしまう。
「ありがとう。動画を見て来てくれたって? どの動画か聞いてもいい?」
砕けた口調がその顔には良く似合う。
ニカッと笑った笑顔までガラが悪い。
「うわ、好き……あ、えと。あれです。ホストあるあるの」
「あー、あれかあ。それのどれ?」
「えっと、同伴しつこい姫への対応と、店外で話しかけてきた時の対応のふたつ」
ハヤテが額に手を当てて破顔する。
「あはははっ、よりによってその二つかよ。良く会おうと思ったね。あれ性格悪いだろ」
わ、わー。
笑ってる。
爽やかに笑ってる。
「あのセリフが、凄かったんで」
くすくす笑いながら、ハヤテが顎に手を当てる。
「えー……どのセリフだ。ああ、あれか」
こちらを向いて、サングラスをずらす。
「……家まで押しかけんぞ」
「それです」
本物だ。