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月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜

第14章 ビデオ・ログ



ビデオは自動的に次のデータを再生し始めた


「0081年5月10日 ビデオ・ログ
 〈船〉に異常無し、〈妹たち〉にも異常無し
 〈わたし〉には異常が有った…

 〈ムーンダスト病〉だ
 感染しないとは思うが、此処に来る事をためらう
 念の為〈妹たち〉が眠るカプセルには予防接種のワクチンを組み込んでおく
 もうこれ以上〈妹〉を減らしたくない


 わたしはパイロットの仕事は続けているが、いつまで保つか?

 私のことよりもスコットにこの病気が遺伝していないのか、心配でたまらない
 一年戦争が終わったというのに、また住みにくくなる

 宇宙はわたしたちに冷たいと思えてくる

 〈姉〉は……、〈オリジナル〉は地球で幸せなのだろうか?

 わたしは今はとてもツラい

 わたしが弱っていく姿をスコットに見せたく無い……

 一応アパートの隣の奥さんには何となく話しをしておいた
 彼女が〈スコット〉を保護してくれるかどうかはわからない
 でも、他に頼れるところも無い

 この船の中は孤独たが、此処から外へ出てもとても孤独だ、何も変わらない


 いや違う、
 スコットの存在だけが私の光りだ
 あがけるだけ、あがこう

 以上 ビデオ・ログ終了」



どうやら1ヶ月ごとに母親キアラはここを訪れていたようだ


パネルを操作する少女は手を止めた


「まだ、見るかい?」


スコットは何も答えれなかった


これから弱っていくてあろう母親の姿を見たくは無かった


「スコット、抱き締めてやりたいが
 わたしの身体はそんなに大きくない
 悪いな」


膝の上の少女はそう言うと、淡々と職務に戻っていった


スコットは黙って少女の指先を見つめていた…



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