月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜
第14章 ビデオ・ログ
スコットは格納庫へ向かう前にキアラとクレアの居る医療カプセルルームへ立ち寄った
「どうだい?そっちのほうは」
「スコット!大丈夫、もう安定しているわ、
でも激しい動きはやめておいたほうがいいわね」
「そうか」
スコットは部屋の壁側に設置された大きなカプセルの前にまわる
横に寝かされたカプセル状のベッドの中に、キアラが目を閉じている
フロントカバー越しだが、彼女の身体には色んなコードがつながっていた
「ここの機械はすごいわ、寝かせただけで自動的にスキャンされて必要な処置が施されていったの、輸血チューブや、点滴チューブ、栄養剤、
それにキアラの回復力がすごいわ」
「そう……」
スコットは愛おしそうにキアラを見つめていた
するとキアラの目がパチリと開いた
「なんだ、起きてたのか」
「……エネルギーを消耗するから目を閉じていただけ……、
それよりキミ、コーエンから引き受けたモビルスーツ、ちゃんと操れるのか?」
「同じアナハイム社製だからね、特殊機能はコックピットシート内でシミュレーションをした
そんなことより、気分は悪くないかい」
キアラは呆れた表情を浮かべた
「おいおい、そんなんで大丈夫なの?
わたしのことはどうでもいい、
わたしの代わりは幾らでも居るからな」
「何言ってんだよ?グラナダから脱出してアガルタで一緒に逃走生活を送ったのはキミだけじゃないか?」
スコットは笑った
そして呆れ顔だったキアラも、ふっと破顔して笑みを浮かべた
「そうだね……、これはわたしだけの記憶、経験だ…」
キアラはスコットのその言葉の意味を感じ取る
大量生産品のうちのひとつであった自分が、
唯一の存在に生まれ変わったような気がしたのだ
まるで世界から祝福されたように
コピーである自分に、何かしらの価値が、意義が与えられたような気がする
「ありがとう、スコット
これから出撃するんだろ?
気をつけて」
「ああ、わかったよ」
スコットはクレアにキスすると、「任せたよ」とだけ言って部屋を出て行った
クレアが医療カプセルに近づくと既にキアラは目を閉じていた
だが先程までと違って、若干口元がほころんでいるように見えた
「良かったわね、キアラちゃん」
クレアも笑顔になった