月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜
第9章 チャームフューリー部隊
ロルフはグリム区にたどり着いた
先程と変わらない大きな露店が集まっている
人通りが多すぎるため、人とぶつかり合う
たまらず路地へ逃げ込んだ
アタッシュケースから端末を取り出す
地形を確認していると、目の前に小さな少女が立っていた
なんだ? 物乞いか?
ロルフはポケットからチョコレートの菓子を探して少女に手渡す
少女は疲弊して無表情であったが、途端に顔をパァーと明るくさせた
〈手配書はOL女と少年だったな
地元の子供か〉
ロルフは変に手配書を見てしまったために気を緩めてしまった
それがミスだった
気付くと腹にナイフが刺さっている
目の前の少女はまだ何本ものナイフを持っていた
〈追い剥ぎか……? 俺としたことが!〉
〈いや、兵士の俺に気付かれず攻撃出来るか?
こんな子供が……ッッ!!〉
手で腹を抑えるが、とても止めきれない
刺されただけでなく、刺したあとえぐっている
察知されず、そこまで出来るか?
こんな芸当は訓練されたゲリラ兵でも難しいぞ
ロルフは言葉も出せず、路地の建物の壁にもたれかかった
そしてズルズルと身体が崩れ落ちていく
ようやく少女が口にする
「おじさん、連邦軍だね
着替える前に耐圧スーツ着てたでしょ
モビルスーツ乗りだね
フォン・ブラウン市から?
連邦もジオンと同じものを探してるみたいだね
やっぱり〈ストーム〉は隠しきれないか
もう、月からは出たほうが良さそうね
あ、おじさんチョコありがと」
ロルフは抵抗する前に、自分の五本の指が切り取られたことに気がついた
耳を切られたことに気がついた
口の中に石を詰め込まれたことに気がついた
それくらい
少女キアラの肉体的スピードは尋常ではなかった
ロルフは眼球を切られ視界を失った
だが、まだ脳は生きていた
残酷にも生きたまま身体を切り刻まれてしまっていたのだ
そして
ようやく息絶える事が出来たのだった……