月のウサギは青い星の瞳をしているのか 〜キサンドリアの反乱〜
第10章 ビクトリア
ビクトリアは女社長となってからも度々鉱山の中に潜っていた
特に希少なチタニウム鉱や、危険なリチム雲母が採掘されたときは率先して危険な玄蕃にたずさわった
そのため彼女は高濃度のリチム化合物に曝露されていき気管支の病に悩まされていく
それでもバッテリーや、覚醒剤の原料となるリチウムや、重金属としてのチタニウムは非常に高価に取り引きされるため、ビクトリアは若くして子供が産めない身体になってしまった
この日も月の地下深くに潜っていて、ハイスクール時代、アナハイム時代からの友人でもあり、今やテロリストに名を連ねるクレアが会社に訪れていたのを知る由もなかったのだった…
クレアは扮装してからビクトリアの会社を訪問したが、当然アポ無し突撃のため会えることは出来なかった
さらに指名手配されている以上、名乗ることも出来ず、おめおめと引き下がるしかなかったのだ
それでも足繁く通い、何とか旧友とコンタクトを取らねば
クレアが逃亡先に〈アガルムの街〉を選んだのはビクトリアへの協力を仰ぐためなのだから
初日はうまくいかなかったが、時間をおいてまた訪問しようと宿まで戻ってくる
ちょうどそのとき宿屋の主人が声を掛けてきた
「アンタ、悪いけど向かいの通りで女モノの服を選んできてくれねェか?
部屋着や下着、あと羽織る物とか適当に
いやなに、この鉱山の街にはひと癖も二癖もある輩が流れ込んてくるんでね
なんならアンタらの服も選んでくれてもいい」
ちょうど間に合わせの服も欲しかったクレアは喜んで引き受けた
「ちょっとケガをしてやがるから脱ぎ着しやすいものも足してやってくれ」
そう言って親父はカードを手渡した
「こんなの私に気軽に渡していいの?」
「コイツは訳アリのカードでね、アシがつかねェんだ、その代わりこの街でしか使えネェ
だから盗難されてもこの鉱山都市から出られねぇ」
「へえ?便利ね、でもアシがつかなかったら見つからないじゃない?」
「そこんとこはうまく出来てんだよ、使った先がバレねぇだけで止めるのは通報したらすぐ止まる、それにアンタの立ち振る舞いは上流育ちだろ?どっちかって言うと騙されるほうのタイプだな?おっと怒んなって!信頼できそうだって言ってんだ」
クレアは言いくるめられながら買い出しに出た…